「かーえろ。」
しゃがみ込んでいる友人の背に勢いよく飛び付けば、彼は少しよろめきながらも軽く受け止めてくれる。分かってはいたことだったが、体格差を感じて若干腹が立った。
「それ何植えてんの?」
緑化委員の彼の足元には、植えられたばかりの小さな苗と、少し汚れた軍手が落ちていた。
「これ?……ん〜……まだ内緒。咲いたら教えたげる。」
彼にしては珍しく意地悪を仕掛けてきた。子供っぽい笑顔を浮かべる彼に、こちらも遠慮なく、子供っぽく拗ねてゴネてやった。
「えー?けち、教えてよ!」
彼の袖をぐいぐい引っ張って、駄々をこねるようにしてねだる。彼は堪えきれないといった様子でクスクス笑うが、やはり教えてはくれなかった。
「だぁめ。まだ秘密なの。咲いたら一番に見せてあげるから。ね?」
諭すように言われて、そっと頭を撫でられながら顔を覗き込まれれば、たちまち僕は笑顔が溢れてきてしまう。すっかり機嫌を直した僕を見て、彼はくしゃりと、更に優しく僕の頭を撫でた。
自分より高いところにある彼の顔が、僕の顔を覗き込むのが僕は好きだ。長い脚をわざわざ屈めて、小首を傾げて覗き込んでくる様はいっそあざといまである。大好きな彼の、大好きな仕草。頭を撫でるオプション付き。機嫌が直らないわけがなかった。
「……むぅ……絶対絶対、ぜーったい一番だからね!」
そんな会話が、2ヶ月と少し前にあった。僕はもうすっかり忘れていたが、彼はきちんと覚えていたらしい。そっと僕の腕を引いて、あの花壇の側まで連れて行ってくれた。
「綺麗に咲いたよ。約束通り、一番に見せてあげようと思って。」
花壇の一面に、小さくて可愛らしい、ピンク色の花がたくさん咲いていた。僕はそれをしばらく眺め、それから花と同じ色に頬を染めて彼を見つめた。
「きれーい!なんて花?」
「ふふ、勿忘草。綺麗でしょ?」
はい、と、珍しく彼が花壇から花を摘んで渡してきた。普段は滅多に、花を傷付けるようなことはしないのに。
「これからもよろしくね。」
言葉の意味が分からず首を傾げた僕が、後に花言葉を調べてまた大はしゃぎすることになるまで、あと数時間。
テーマ:勿忘草(わすれなぐさ)
2/3/2026, 7:56:34 AM