白糸馨月

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お題『冬になったら』

「冬になったらいつでも会えるよ」
 と言ってくれた雪の妖精の女の子とは、もう何年も会えてない。
 雪深かった街から父が東京への転職を決めてから、十五年くらいが経つ。
 東京はあまり雪が降ることはないし、何年か経つうちに僕は彼女の存在を忘れてしまった。
 そんな折、新卒で入社したばかりの僕に配属先の辞令が出された。昔住んでいた雪深い街の近くの事業所だった。

 引っ越して十二月になりかけたある時、雪が降り始めた。僕はなんとなく彼女が現れる木の下に行った。
 十五年くらい放置して、いまさらだろうと思う。
 だが、彼女は僕の目の前に現れた。すこし頬をふくらませながら。姿は昔会った時とどこも変わっていなかった。

「ねぇ、遅すぎる」

 腰に手を当てて怒る彼女にただ、ごめんとしか言えなかった。そしたら、彼女がふと表情をゆるめて、寂しそうに笑う。

「でも仕方ないよね。だって何年も前だもん。もう君も大人になっちゃったよね」
「そうだけど、また君と遊びたくなってここに来た。だめかな?」

 そう言うと雪の妖精はパァと笑った。

「えっ、いいの?」
「うん」

 それからというもの、僕たちは昔のように雪の上を転げ回りながら遊んだ。仕事で疲れていた心が童心にかえることで癒やされていく。
 それにまた彼女としばらく過ごせるという事実を僕は噛み締めていた。

11/18/2024, 4:01:25 AM