郡司

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恋物語

昔、漫画雑誌の中に「きになるあの人の愛は」などというページがあって、「きになるあの人」も居なかった私は、自分自身のデータが出す結果を見てみた。

曰く、「この人から本当の愛を得ることは非常に難しいでしょう」と。…おい、なんだって…? 続けて「この人はよほどのことがなければ人を愛しません。貴女が泣くだけの結果になりがちなので、やめておいたほうが良いでしょう」…ちょっと、これ自分の生年月日データで見てるんだけど。私がそんな奴だと言ってるのだよね…? 解せぬ。しかも、ほかの結果文はどれもみな「お花畑でキャッキャウフフ」な内容なのだ。解せぬ。ほとんどディスりではないか。このコーナーを書いた人はどこか虫の居所が悪かったのだろうか? だいたいそこに書かれている「本当の愛」って、どんな定義で書かれているんだろう? うむ、解せぬ。

そんなものを見たのも今は昔の35年ほど前だ。

で、実際どうだったんだ、というと、恋はした。そのとき自分の近くにその人が居なくて本当によかったと考えている。まるで満水のダムが一気に決壊するように、津波じみたエネルギーの心だったから。何もかもを圧倒的に押し流して、誰かを巻き込んではひどく傷つけることまで容易に想像がつく。少なくとも、勢いが時間のなかに落ち着いて、穏やかで絶えない流れになるまでは、近付くわけにはいかない…制御も不可能な自分自身の心のエネルギーを心底恐れた。執着心が植物の蔓のようにものすごい勢いでその人に向かって行くのを、全て焼き払った。何度でも、何十回でも、何百出たって全部焼き払う決意を通した。自分から出た執着の蔓がその人を縛るとかぞっとするし、自分自身を殺したくなることウケアイの想念だなんて冗談じゃない。愛するひとよ自由に飛べ。…しかしそのせいか、心が伝わってない気もするのだ…人は、静かだけど力強い心の響きでは「ちがう、コレじゃない。自分は失恋したんだ」と思い込んでしまうのだろうか……まあ、それでも私の心は変わらぬのだけどね。これはもう恋じゃない。愛だ、愛。釜爺(映画『千と千尋の神隠し』より)に加勢してもらいたいくらいだ。「わからんのか、愛だ、愛ッ!」

恋は大波、津波のよう。
愛は静かな流れのよう。

5/19/2024, 5:39:34 AM