ブラックサンダー

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幸せな夢を見ていた。

大好きなあの人と手を繋いで。

行った事もないひなびた商店街で、お昼ご飯を食べられる場所を探す夢。

あの人は凄く穏やかな人だから、全然お店が見つからなくてもイライラしなかった。

むしろイライラしていたのは私の方で。

暑いだの、足が痛くなっただの、私はひたすら不機嫌だった。

それでもあの人は私を宥めて、やっと見つかったお店のドアを開けてくれた。

「美味しいといいね?」

その優しい微笑みを見つめて、私はこの人が好きだと夢の中で再確認したのだ。


目覚めると、私はベッドに一人で仰向けに寝ていた。

昨夜の別れ話。

彼は最後まで優しく、ごめんねと微笑んだ。
そして、今まで本当にありがとうって真っ直ぐ私の目を見た。

上手く行ってたのに、もしかして浮気して他に好きな人が出来たんじゃないの。

私は不機嫌に席を立って、これまでの日々にありがとうも言わず彼に背を向けた。

…多分違った。
彼の優しさに胡座をかいて、私は我儘すぎたんだ。

つるりとこめかみに涙が伝う感触に、ふっと息を吐き出した。

夢の中の彼が、理由を教えてくれたんだ。
別れに納得して、私が彼を諦められる様に。

彼は、最後まで優しい人だった。



7/10/2023, 10:49:19 AM