5/26 お題「いつまでも降り止まない、雨」
土砂降りの雨に打たれどのくらい経ったか。隣に人の気配を感じ、何気なく声をかけた。
「止みませんね」
「えっ?」
若い女性はひどく驚いた様子だ。私は付け加える。
「雨が」
「あめ、……ですか?」
彼女は訝しげに私を見ている。その手に傘はない。
これは夢か、と私は悟った。
この夢の中では常に降り続けているがゆえに雨という現象そのものの認識がないのか、はたまた激しく打たれているのは私だけで彼女の上には降っていないのか、ともかく視界が遮られるほどの雨で私には判断がつかない。
ふと、人生もそんなものかも知れないと思った。自分一人だけが雨の中にあり、他人にはわからない。逆もしかりだ。
「すみません、こっちの話でした」
「あ、はあ…」
女性は曖昧な返事で作り笑いをした。
ひとつ幸いがあるとすれば、私は雨がそう嫌いではない。傘がなくても絶望しない。
目が覚めたら窓を開けよう。晴れでも雨でも曇でも。
(所要時間:17分)
5/26/2023, 9:12:28 AM