→『彼らの時間』7 〜タイマー〜
好きな人の側にいたいのに遠避けようとしてしまう。彼に悪いことをしているのはわかってる。でも、いつか来る「終わり」を僕は恐れている。
「んー、なぁんかイミフメイ」
杏奈ちゃんは腕を組んで天井を見上げた。
最近、杏奈ちゃんとカフェ時間を過ごすことが多い。初めはヒロトくんと3人で合ってだけど、近頃は来ないことが多くなった。
手帳の一件以来、僕たちの仲はギクシャクしている。杏奈ちゃんも僕たちが気になるようだ。
「綿貫くんは尋斗から名前で呼ばれたり、ペアグッズがイヤ、と?」
杏奈ちゃんの押しの強さに負けて、色々と話してしまった。両親のこと、ヒロトくんへの気持ち、などなど。話してないのは……、あのヒトのことだけ。これは流石に話せない。
「イヤっていうか、思い出の数が多いと関係解消のとき、お互いに辛すぎでしょ?」
「石橋、叩きすぎ!」
杏奈ちゃんにピシャリと言い切られて、僕は思わず背筋を伸ばした。
「そこまで行くと、慎重通り越して地雷系クサくない?」
「そ、そうかな?」
「だって、綿貫くんは尋斗を名前で呼んだり、自分の家に引っ越させて一緒に暮らしてる。でも尋斗からのオファーは何も受け取りたくない。これってどうよ?」
そう言われると確かにヒドイ……。ヒロトくんの優しさに甘えて彼を振り回してる。
「綿貫くんの恋愛観って、タイマーみたい」
「タイマー?」
「終わりに向かってカウントダウン」
杏奈ちゃんは、珈琲をビールのように飲み干した。「尋斗と綿貫くん、いい感じだと思うよ。本気の恋なら、タイマー切って、もっと尋斗に歩み寄ってやんなよ」
家への帰り道。杏奈ちゃんの言葉を考えながら歩いていた。
本気の恋かぁ。杏奈ちゃんの言う通り歩み寄ってみたいなぁ。でも歩幅を間違えたら、ヒロトくんは僕を鬱陶しく思って、消えちゃったりしないかな……。例えば、あのヒトみたいに。「寄りかかるなよ、重いヤツだなぁ」含み嗤い。イヤだな、今日はやたらと彼を思い出す。
「ん?」
スマホの呼び出し。ヒロトくんかな? 話し合いたいって言ってみようかな? それとももう少し自分の中でまとまってから――。
―昴晴、前見ろよ。
違う、ヒロトくんよりも低い嗤い声。これは……。
頭を上げる。今まで考えていたことがすべて吹っ飛ぶ。脈打つ鼓動。脈打つ頭。絞り出した声は僕のもの?
「司さん……」
思い出が実物となって、僕のマンションの前に立っていた。
テーマ; 本気の恋
9/13/2024, 2:03:13 AM