「織姫と彦星が今年も会えますように」
ざあざあと雨音が響く七夕にそう願う女に目を向ける。窓を開けて、ちらとも星が見えない空に真剣に願っているらしい。
「何をわざわざ。放っておいても会っているとも」
「どうして?今年は天の川が見えないわ」
「そもそもだ、宇宙に雨は降らない」
雨が降るのは星より下である。天の川がこちらから見えようが見えまいが、雲より上の星々には関係ないはずだ。
「…あなたって浪漫がない人ね」
それなのに、どこか拗ねたような声を出されてむっとする。何も間違ったことは言っていないのに何故批難されなければならないのか。
反論しようと口を開いた、その瞬間。
「でも、優しい人だわ」
くすくす笑って付け足された言葉にどんな顔をしていいやらわからなくなって、ぐうと喉を鳴らした。
"月に願いを"
5/26/2024, 1:58:44 PM