省旭

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「雨は嫌いなんだ」

彼はぽつりと呟いた。ギシギシと軋む古い椅子に腰掛け、窓際に頬杖をついて外を眺めている。こちらからその表情は見えない。

「何かを失う日はいつも雨だった」

言葉を僕に投げかけているようにも、ただ呟いているだけのようにも思えた。返事は期待していない、それだけは確かだ。

「ここは雨が多くて嫌になる」

彼の金髪が揺れる。雨雲によって太陽光が遮られている今、彼の輝くような髪は彩度を落として僕の目に入ってきている。
果たして彼に対して何が出来るのだろうか、と思った。所詮僕はただの人間だし、雨を降らせないようにするなんて神の所業が出来るわけでもない。僕が神だったら目の前で表情も見せずただぼんやりと追憶にふけっているマヌケな彼のために雨という雨を一切降らせないようにするのもやぶさかではないが、あいにく僕にそんな能力はなかった。

6/1/2024, 11:26:03 AM