大切なもの
小夜の中には十四歳で止まったままの少女がいる。
十四歳は彼女にとって辛い年だった。
小夜は卓球部だった。部員は多く、レギュラーなんて夢のまた夢。公式大会に出るにはリーグ戦で勝ち上がらればならない。しかも顧問の教師によってすんなり十位以内の部員が選ばれず、十二位から十位が団体戦、十位から九位が個人戦。
小夜はこの制度をひどく憎んだ。
――何故、何故! 下の奴らになぞ譲らねばならない!
いっそ、十位から下は切ってしまえばいい!
小夜は残念なことに下から数える方が早い順位だった。
一年、二年の途中まではレギュラーに入れず、悔しい思いをした。だから、努力した。休日には自主練をしたり、練習本を使って、サーブの研究もした。
そして、三年の春、小夜は十位。本来ならば団体戦に出場できる権利を得たはずだった。
だか、結果は初戦敗退。
初戦敗退! 小夜は出場することなく春を終えたのだ!
――嗚呼、口惜しい! 悔しい! 私以外の三年生は皆、出場するのだ、したのだ! 例え、初戦で負けようと出場したという事実は変わらないのだ。 私が成し得なかったことをあいつらはやすやすと越えていく! 今すぐ口汚く罵れたら、誰かに当たり散らせたら、どれほど溜飲が下がるだろう!
春の大会後の写真はいまだ、小夜の手元にある。周りの人間共は皆、笑顔。しかし小夜の顔には不服以外はなかった。
――あら、懐かしい。そうだわ、そうでした。私は出場出来ませんでしたわね。皆の笑顔ほど腸が千切れそうになるほど腹が立つことは、今のところこれかもしれません。
春の屈辱を果たすべく、小夜は六月の最後の公式大会に出場すべく、周りの人間を仲間だという認識をほぼ捨てた。同期も後輩もこの大会を最後に関係性なくなる! そう思えばおもうほど、小夜は燃えた。
彼女は通っている塾のニュースに公式試合に出場した時の写真を撮影して欲しかった願望もあった。
春に果たせなかったことを成し遂げるべく、小夜は体の不調を出しながらも、非公式大会に出場し、己の技術を向上させていく。
そしてリーグ戦! 結果は八位!
小夜は遂にどちらのレギュラーになれる権利をとれたのだ。
周りの人間共はさぞかし驚いただろう! 愚鈍な小夜に負けたのは、ある種の屈辱だったかもしれない。
小夜は嬉しくて堪らなかった。
――最後になってしまったが、出場出来る! 今まで写真に滅多に撮られなかったが、今回は私の記録が残る!ようやくだ! ようやく私も記憶を残される存在となったのだ!
小夜は、己の価値を見いだせた気でいた。
現実は、上手くいかない。
個人戦、一回戦敗退。
団体戦、初戦敗退。
写真は小夜だけ撮られなかった。
――嗚呼、嗚呼、嗚呼!! そうか、そうか、これが現実か!! 残される記録は大したことなく、自身の記憶すら撮影されないのか! 理由は分かっているさ! 個人戦は己の驕りと傲慢が招いたものが原因で。団体戦はそれを引きずり切り替えることが出来なかったのが原因!! 何故、何故、何故!? 一勝することもせず終わった私の六月! そうだあの時、負けてしまったとき泣いたからか? きっと同期も後輩も、顧問も唖然としただろう。お前らには分かるまい。私の下克上のなれのはてを。分かってたまるか! お前らなんぞに、私の気持ちが分かってたまるか! 撮影者も撮影者だ。何故、何故、何故、私だけ、私だけ! 撮ってくれなかった!他の子は撮られているのに! 他の人間がなかったら私は諦めがついた! どうして私だけ、撮ってはくださらなかった。分かっております、分かっております。撮影の方のご事情は。ですが、でも、だが、だが! だが!
どうして、私の努力は報われなかったの!
嗚呼、十四の小夜…わたくしが叫んでおります。
いくら年月が経とうと、止まったままなのです。
わたくしが今出来るのはこの子を抱きしめ続けることです。
誰かにお話をすれば、捨てたほうがいいと言われるでしょう。
楽になると。
しかし、わたくしには出来ませんでした。これから先も出来ないでしょう。
『十四歳の小夜』はわたくしにとって、たいせつなものです。
わたくしの『今』はこの子を抱えて、未完成のままで生き続けているのですから。
4/2/2026, 2:01:19 PM