59星空
僕の彼女のナナヨちゃんは、とにかくすごく、だらしがない。
部屋は汚いし高校は中退してるしブラジャーは基本的に洗濯しないし、すぐ浮気をする。
中学の先輩とか、悩みを聞いてくれたバイト先の同僚とかと、至極あっさり寝る。
僕はナナヨちゃんの浮気の気配を感じるとすぐに止めに行く。
だいたいは普通の浮気だが、けっこうな確率でマルチとかAVデビューとか反社の愛人契約とか、そういうものが混じっているので、止めないわけにはいかないのだ。
僕はただの大学生で女子禁制の寮に住んでいて、だからナナヨちゃんを守るのもなかなか難しいけれど。
それでもこれはやばいぞという気配を感じたら、講義もなにもすっとばして、ナナヨちゃんのもとに駆け付ける。
今日、ナナヨちゃんはバニーガールになっていた。表向きはただのバニーがいる店だけど、裏向きにはいろいろとあるかなりヤバい店らしい。
僕は店に突っ込んでいって、バニーのナナヨちゃんを助け出してきた。
刃物を振り回して、追っかけてきたら殺すぞと怒鳴って、バニーのナナヨちゃんの腕をひいて店を飛び出してきた。自分で言うのもなんだけど、かなりぷっつんとキレていた。
僕のしたことはりっぱな脅迫であり、威力業務妨害だ。これではどちらが反社か分からない。だけど。
「ごめんね。私、バカだから。ごめんね」
僕に手を引かれて星空の下を歩きながらナナヨちゃんはずっと泣いている。バニーガールの姿で泣いている。そして夜空の星はきれいだ。
ナナヨちゃんときらきらした星。今は世界にそれだけあればいいと思う。
「もう本当に、だらしがないよ。ナナヨちゃんは」
僕はそう呟いて、あったかい手をにぎったまま歩く。だらしのないナナヨちゃんは最高にかわいい。そして僕にとって最高に大切だ。ナイフで人を脅すくらい、ナナヨちゃんのためならなんてことない。空で星が光っていて、ナナヨちゃんが隣にいる。それ以上何を望むだろう。
「星、きれいだね」とナナヨちゃんが言った。そうだね、と僕は答える。
「わたし子供のころ、月に行ってみたかった」
そっか、とだけ、僕は答える。ナナヨちゃんはすぐにバニーになっちゃうダメ女だけど、いくらウサ耳が似合うからって、そうそう簡単に月には帰れない。そういうものだ。だからとりあえずただ、夜道を歩いていた。
7/6/2023, 9:53:19 AM