かたいなか

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「今日だけ」というのは、だいたい守られないものです。「怒らないから」の類語です。
ただ、その「今日だけ」が今回のお題なので、そういうおはなしを、ひとつご紹介しましょう。

最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界の某職場の、その中にある原っぱで、
とっても強くて、そこそこ優しくて、法務部執行課、某部門の部門長をしておるドラゴンが、
ぐぅすぴ、かぁすぴ、昼寝をしておりました。

その日の原っぱは、日当たりが良くて丁度の湿度。
適度に、カラッとしています。
ぐるる、ぷしゅるる。ぐぐ、ぷしゅー。
鼻提灯などこさえて、最初は本能に従っておなかを隠して、丸くなって寝ておったのに、
がふっ、ぐるるる。がふっ、ぷしゅるる。
外があんまり心地良いので、いつの間にかヘソ天。
なかなかカワイイもんです。

ところでこのドラゴン、職場でのビジネスネームを「ルリビタキ」といいます。
仕事中はテンプレートとして、人間に変身して業務をしております。
この人間形態の姿と声と、それから振る舞いとがなかなか、「こっち」の世界の方々に好評でして。

「ああ、あああ、かわいい、カワイイ……」
本日のお題回収役の都内在住・後輩もとい高葉井さんも、人間形態のルリビタキに焦がれるひとり。
「人間だとあんなにカッコイイのに、ドラゴンでもすごくカッコイイのに、ルー部長、かわいい」
ぐーすぴ無防備に、野生を捨てて眠るルリビタキ・ドラゴンを、スマホとカメラで撮っています。

「この職場」に高葉井を引き入れて、ルブゴンが寝ている原っぱまで案内した者が居るのです。

「今日だけ、今日だけだもん、
ああ、幸せそうに寝てる、ルー部長……
はぁ、おなか、触りたいッ」

本来ならば、ルブゴンが寝ているその世界は、「こっち」の世界とは離れて隔絶しておって、
誰も、ルリビタキには会えないのです。
それを、「今日だけ特別」、「今日だけ許して」。
高葉井を、連れてきたものが在るのです。

え?「人間形態のルリビタキの情報」?
それはほら、今回のお題から離れますので。

「どーお、撮れたぁ?」
高葉井が鼻息荒く、ルリビタキ・ヘソテンドラゴンを撮影しておるところに、ひとり、局員が登場。
彼女こそ高葉井を「今日だけ」引き入れた張本人。
ビジネスネームを、ドワーフホトといいます。
「かわいいよねー、あの部長さんが、ヘソ天だもぉん。こーちゃん、撮りたいだろうなーって〜」

「もう、眼福です、最高、
いや、すごく苦しいッ、だって、おなか……!」
ああ、このプニプニの、つるつるの、本来ならとっても強くて雄々しくてカッコイイドラゴンの、
お腹を、ああ、おなかを、プニプニしたい!
高葉井は胸をかきむしり、苦悶しました。

「今日だけ、ああ、きょうだけ、触って良いかな、
ダメかな、ねぇ、ルー部長」
「さわっちゃいなよぉ。きもちーよぉ」

「気持ち良い、」
「プニプニだよ、ペタペタしちゃいなよー」
「プニプニ、ぺたぺた」

ああ、ああ。おねむの竜よ、ルリビタキ・ヘソテン・ハナチョウチンドラゴンよ。
お前のそれを、世ではギャップ萌えというのです。
高葉井はドワーフホトと一緒に、幸福に昼寝するドラゴンの寝顔を堪能して、
それをガッツリ法務部の、ツバメという局員に見つかりましたので、一緒になって逃げましたとさ。

10/5/2025, 9:51:32 AM