「やぁ、ゆき。こんにちは」
私を【ゆき】と呼ぶこのおじいさんは、
毎日この公園に来ては、私に会いに来る。
おじいさんと出会ったあの日は雪が降っていた。
寒くて丸くなっていた私を抱き締めて、
「大丈夫だよ」とずっと暖めてくれた。
雪のように毛並みが白くて、出会ったあの日も
雪が降っていたことから、私はただの
野良猫から【ゆき】になった。
それから毎日おじいさんと会うのが
私の日課になった。
「いいこ、いいこ」としわしわの手で
優しく撫でられるのが大好きで。
短い時間だけど、この時間が私にとって
心のそこから幸せだと感じる瞬間でした。
でも
ある日、おじいさんはパタリと
来なくなりました。
寂しくて、寂しくて、寂しくて。
心にポッカリと穴が空いたような、
そんな感覚でした。
しばらくして、私の名前を呼ぶ
女の人に出会いました。
「あなたがゆきちゃんね。」
おじいさんと同じ、優しい笑顔と優しい声と
優しい匂い。なんだかすごく安心して、
とても懐かしい気持ちになりました。
「おじいちゃんから話は聞いたよ。
聞いてたとおり、本当に雪のように綺麗な
猫ちゃんなのね。」と優しく話かけながら、
私の頭をふわりと撫でてくれました。
「おじいちゃんが待ってるよ。
さぁ、一緒に帰ろうか。」
そう言って私を優しく抱き上げてくれたときの
女の人の声は少し震えていました。
何でかは分からないけど、難しいことは
よく分からないけど、涙が止まりませんでした。
女の人はそんな私を見て、もう一度
優しく抱き締めてくれました。
季節は巡って、また雪が降る季節になりました。
窓から見る雪は何度見ても不思議な感じです。
私はおじいさんの写真の側で「にゃあ」と
言い、そっと寄り添いました。
私に名前をくれたあの日からずっと、
雪を見ると思い出すのは、おじいさんとの
優しい思い出ばかりです。
#4 『雪』
1/7/2024, 12:45:00 PM