「ねぇママ。ママのこどもころのゆめってなにー?」
6歳の娘にある日突然聞かれたのはそれだった。
もうそんなことを聞く年になったのか、という感慨深さと、一体どんな回答をしたらいいのかで、迷ってしまった。
私には子供の頃の夢なんてなかったような気がするから。
概して子供の頃というのは高校生くらいまでらしい。私はその時期、荒んで、生きる理由すら見失っていた。
突然の両親の事故死。
学校内でのいじめ。
勉強にもついていけないし、今でいっぱいいっぱいで未来のことなど考えもできなかった。
そんな私に声をかけて掬い上げてくれたのが夫だ。
学校一優秀だった(らしい)彼は、なぜか親身に勉強を教えてくれた。
お陰で学校にいかずして勉強はできるようになった。
当然、その年は出席日数が足りず留年になったけれど、無事大学にも受かれた。
明るく前向きになれた時の私の夢なんてーーそんなの、彼の妻になることに決まってるじゃないか。
其処まで思い当たると顔が真っ赤に火照ってしまった。
「ママー?おかおあかいよ。だいじょうぶ?」
娘が心配してくれている。嬉しいけど、なんだか恥ずかしい。
「ママは大丈夫。ちょっとお顔が赤くなっちゃっただけよー」
そうはいうものの娘は納得してくれなかったらしい。
「パパー!ママがおねつだしちゃった!」
と夫の元へ駆け込んでいく。
これは後々揶揄われそうだ。
全く。
「ママのね、子供の頃の夢はパパのお嫁さんになることよ」
唯一思いついた答えが、娘の求めていたものなのかどうか。
たとえ違っても、これが嘘偽りない自分の気持ちだ。
娘がいないのをいいことに1人呟いてみた。
「……〜〜っ」
ドアの方から声になっていないうめき声が聞こえるり
はっとそちらを見ると、顔を真っ赤にした夫と、それをきょとんと見上げる娘の姿が見えた。
まさか聞こえていたなんて!
恥ずかしさのあまり死にそうだ。
「あれ?パパ、ママ。ふたりともおねつ?」
何も知らない娘だけが、心配そうな声を出していた。
6/23/2025, 1:40:52 PM