緑川 悟

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「また会いましょう」

事務方の大先輩、ゆかり先輩がめでたく寿退社をすることとなり、顔が隠れるほどの大きな花束を抱えながら皆の前でスピーチをしていた。

その小柄な体格からは想像もできないほどの体育系でパワフルな仕事ぶりに私も何度も頼ったものだ。

頼りない高身長の私、香織と頼れる小さなゆかり先輩。周りからは「凸凹コンビだなあ」とからかわれることもよくあったが、コンビという響きにマスクの中では笑みがこぼれていた。

先輩とは会社の垣根を越えて何度も呑みに行ったし、お泊まりもした。それでも先輩は男との結婚を選んだ。

「ごめんね、香織。私やっぱそっち側じゃなかった」

ずるい。嫌いになったと言って欲しかった。それなら諦められた。

先輩はスピーチの最後に突然もらった花束から一本ずつ皆に渡し

「これでお別れではありません。その花を見て私を思い出してください。それではまた会いましょう!」

と爽やかに礼をしてはにかんだ。

「ちょっとぶっちゃけこの花束はデカすぎるんだ」

オフィスが湧く。最後まで皆を笑わせていた。そしてその中からリンドウを私に手渡し、まっすぐな瞳で別れを告げた。

「またね」

ずるい。先輩はずるい。いっそのことさようならと言って欲しかった。

今日も玄関でその花は揺れる。またね、と偽りの希望を振りまいて。

11/13/2022, 1:13:19 PM