一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→『彼らの時間』8 〜タイムラグ〜

 ワタヌキコウセイは、小学3年の時のクラスメイトだった。羽ばたく鳥のように優雅に動く彼の手に、何故か目が吸い寄せられた。
 小学校卒業を待たずに引っ越した彼と再会したのは、大学1年の時。夜明け前の公園だった。俺は彼女と別れたばかり、向こうも同じような状況っぽかった。詳しくは訊いていない。憔悴しきって、あの美しい手は骨のような有り様で、顔を覆って泣いていた。
 お互いに驚いて、言葉少なく。LINEを交換して別れた。
 その日から何度も、小鳥を温めるように彼の手をそっと包み込む夢を見るようになった。
 会うことなく近況報告の日々。それでもトークは途絶えずに続いた。
 分岐点は、合コンに誘った時の彼からのLINE。
―誘ってくれてありがとう
 モジモジなクマのスタンプ。
―男の人しか好きになれないから… 遠慮しとくね
 世界が、開けた。10年のタイムラグ。
 自分が本当に誰を好きなのか、ようやく気がついた。
 
 あれから1年、ワタヌキコウセイとの関係は続いている。今は少し停滞気味だが、これからも一緒に居たい、けど……――コイツ、誰? え? 何事が起こってんだ?? 状況に頭が追いつかない。
 その男は、ワタヌキの首に手を回して部屋に乗り込んできた。
 久野司と名乗ったソイツは嘲るような視線だけをこちらに送り、ワタヌキの耳に口を寄せた。「なぁ、昴晴? あんなに一緒にいてほしいとか縋ってたくせに、あっさり鞍替えか?」
「お願い、手を離して、司さん」
「あーぁ、真っ赤になっちゃって」と久野はワタヌキの耳を舐めた。ワタヌキが身を捩る。
「やだぁ! 止めてよぉ!」
「そんなに喜ぶなよ」
 ハァ!? ふ・ざ・け・ん・な!!!
 バカなオヤジにプツンとキレて、ようやく体が動いた。
「おい! オッサン!! コウセイ、嫌がってんだろ!! さっさと離れろ!! 前時代的ご都合主義振りかざしてんじゃねぇよ!!!!」
 久野からコウセイを引き離し、俺は二人の間に割って入った。

テーマ; 君からのLINE

9/15/2024, 6:05:42 PM