いつかわたしが死んだあと、灰になってなんでもなくなっちゃうくらいなら、そのまえにわたしは灰になりたい。わたしのことをなんにも知らないだれかに、なれた手つきで燃やされるくらいなら、わたしはわたしを燃やしてしまおう。そうしたなら、わたしはきっとあの人に出会える。
わたしの一目惚れを笑ったあの人は、いつだってわたしのことなんてどうも思ってない。だってあの人には約束の人がいるんだ。そしてそれはわたしじゃない。わたしが交わした約束なんか、こんどはわたしにうそをいわないでってことくらいだ。
でも、だからなのかもしれない。あの人はわたしに軽口をたたいて、「またこんどな」「あしたにするから」だとか、先のばし先のばしにしていた。それはわたしをかわいい子どもだと思ってはいた証拠だ。そしてわたしは、かわいくない子どもになろうとがんばったけれど、あの人は笑っているばかりだった。そう、やっぱりわたしはあの人の約束にはなれない。いろんな意味で、わたしの一目惚れは最初から死んでいた。
あの人のお葬式にすら行けないわたしは、よくあの人がえさをやっていた野良の黒猫をなでるしかなかった。
わたしは、さいごのあの人がどんな気持ちでわたしに「またあした」って言ったのか、一生考えつづける。わたしの一目惚れはまったくロマンティックじゃなかった。あの人が首をつったから。わたしとの約束は簡単にやぶって、大切な人のところへ行ってしまった。
あの人をつれてゆくなんて信じられない。さいごのさいごまであの人は笑っていて、そう、またあしたあおうねって、言ったのに。
ふと思いだす。あの人の哀愁をさそう、かなしいかなしいさいごの笑顔。
11/4/2024, 12:25:48 PM