ストック1

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それをあけてはならない
謎多き秘密の箱
なぜあけてはならないのか
中に何が入っているのか
あけたら何が起こるのか
秘密だから誰にもわからない
どこにあるのかさえも
ただ、言い伝えだけが村に残っている
「秘密の箱は秘密のままでなければならない
その秘密を探るべからず
その姿を探すべからず」
僕はその禁断の秘密に魅せられてしまった
どうしても秘密を解き明かしたい
たとえ、何が起こるとしても
村のみんなの協力は得られない
みんな、秘密の箱を恐れているから
ただ、ひとりだけ協力を得られそうな人がいた
僕の祖父だ
僕と同じく、好奇心旺盛な祖父なら、わかってくれる
しかし、祖父の返事は意外なものだった

「ダメだ
秘密の箱だけは探るな」

普段穏やかな祖父にしては、珍しく凄みを感じる言葉だった
驚いた僕は恐る恐る、理由を聞いた
祖父はとても言い出しづらそうにしていたが、僕の目を真っ直ぐと見たあと、深いため息をついて話し始めた

「あの言い伝えはな
俺が子供の頃に考えた作り話なんだよ
今で言う厨ニ病?とかいうやつだ」

祖父によると、当時読んだホラー小説に影響されて、それっぽい話を友達と一緒に作ったそうだ
そこで話を終わらせておけばよかったのだが、親世代になった時、ふと思い出して懐かしくなり、まかり間違えてその話を子供たちに広めてしまった
そしたら、祖父と共に話を作った友達までふざけて村の言い伝えとして語り始めた
こうして村の言い伝えとして、秘密の箱が出来上がったのだという
なお、祖父以外の友達はみんな亡くなっているため、もはや秘密の箱の秘密を知るのは祖父だけだ

「あんまりにも恥ずかしいから、墓場まで持っていくつもりだったんだ
お前も、秘密の箱のことは……少なくとも俺が逝くまでは誰にも言わないでくれよ?」

僕は秘密の箱の秘密を知ったことを深く後悔した
やはりこういうことは解明しないほうがいいのだ
あえて解き明かさないロマンもあるのだと、僕は知ったのだった

10/24/2025, 11:28:36 AM