優越感、劣等感
優越感
「お前は良いよなぁ。勉強もスポーツも出来て。背は高いし、顔も良いとか」
人生勝ち組じゃん?
なんて、お前が俺に羨望の眼差しを向けてくるのが。
俺は嬉しくて堪らない。
お前に褒めらると、顔がニヤけそうになる。
正直に話すと、彼以外にも俺を羨ましがるヤツは大勢いて。
みんな、俺を羨ましいと言ってくるんだけど。
そんな時は何とも思わないどころか。
ちょっと煩わしささえ感じる。
でも、お前の言葉だけは他と違って、嬉しくなる。
これは、親友のお前に、俺が優越感を感じてるからだと思ったりもしてたんだけど。
どうやら、違うらしい。
「俺、好きな子いるんだけど。その子さ、お前のことが好きらしいんだよなぁ」
この前、話してたら、お前の連絡先知りたいっぽかったし。
と、肩を落とす彼に。
俺は何だかイライラしたんだ。
お前に好きな子がいることも。
その子が俺を好きらしいのも。
だって、お前が俺を羨ましがるのは。
その子に好かれたいからなんでしょ。
……そんなの、何かムカつく。
と、この時、俺は気がついてしまった。
俺がお前に褒められて嬉しいのは、優越感からじゃなくて。
俺が、お前のことを好きだからだ。
好きな子に褒められて、嬉しくない男なんていない。
……でも、そんなの意味ねぇーじゃん。
好きな子に振り向いてもらえないなら、全然、人生勝ち組じゃねぇーし。
そう思うと、隣で肩を落とす彼がやっぱり腹立たしくて。
「バーカ。俺の連絡先、勝手に教えたりすんなよ?」
と、彼の頭を、手でクシャクシャにしてやれば。
「ちょっ、何すんだよっ?今日、髪のセット良い感じにキマったと思ってたのによぉ」
「そんなの知らねぇーし」
お前が、俺の気持ちを知らないのが悪いんだから。
劣等感
俺と並んで歩く彼は。
誰が見ても振り返るような、長身イケメン。
対して、俺はというと。
チビで、顔は別に普通。
そんな俺達が並んで歩いていれば。
俺はお前の引き立て役か、って。
当然、劣等感が湧いてくるんだけど。
でも、それでも、俺が彼の隣にいるのは。
気が合うし、一緒にいて楽しいからだ。
勉強もスポーツも何でも出来る彼は。
意外と子供っぽくて。
俺もスポーツは得意だから、勝負をすれば勝てる時も、たまにあるって。
一度や二度の負けぐらい、諦めたら良いのに。
俺に負けた時は決まって、直ぐに再戦を申し込んでくるところなんかは、負けず嫌いで。
完璧な彼の可愛らしいところだし。
俺も負けず嫌いだから、おんなじだな、って嬉しくなる。
そんな感じで、彼といるのは劣等感を感じることも多いけど。
楽しくて、嬉しいこともいっぱいあるから。
俺は彼と過ごす時間が好きだ。
まぁ、目の前で女の子に呼び出されて、告白されに行く彼を見送るのは。
正直、複雑な気分になるんだけど。
それは、彼ばっかモテて、羨ましいからだと思ってた。
でも、どうやら違うっぽい。
だって。
前から好きだと思っていた、女の子に。
彼の連絡先を知りたい、みたいな話をされて。
俺はもちろん、ショックだった。
でも、それは。
俺の気持ちが、その子に届かないとわかったからじゃない。
彼を、その子に渡したくないと思ってしまったから。
その気持ちに気がついて、俺はショックを受けたのだ。
……俺って、アイツのことが好きなんかな。
けど、そんな気持ちは受け取ってもらえないに決まってる。
アイツは人生勝ち組なんだから、相手は選びたい放題なんだし。
俺はチビで、勉強はさっぱりで……何より可愛い女の子じゃないから。
俺ががっくりと肩を落とす。
そうしたら、隣の彼がバーカ、なんて。
頭をクシャクシャにしてくる。
頭に触られた瞬間、彼の手の大きさと温もりに、ドキドキして。
……こんな惨めな気持ち、早く忘れなきゃ。
慌てて、彼によって乱れた髪を直すと同時に。
煩く騒ぐ心臓を落ち着かせるのに、必死になるのだった。
End
7/13/2024, 11:40:44 PM