或る本の巣、模写。

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「この道の先にラピュタはあるんだ」


「なにそれ?」


「……」


「ねぇ、今のなに??」


「いや、好きかと思って」


「……好きだけどwwそんだけ?」


「 うん 」


少し恥ずかしそうに、いやだいぶ恥ずかしそうに、ぎゅっとハンドルを握りしめて、じっと赤信号とにらめっこをしている彼の横顔をにんまりと笑いながら見つめていた。
小さい頃、信じ続けていればいつか[天空の城ラピュタ]に行く機会が巡ってくると思っていた。だけど、現実は残酷なほど現実だった。

小、中、高と大学をそれなりの時間を経て、社会人になった今。ル・シータ症候群になんてかかっていられない。私はシータになるチャンスをもう失ったのだ。赤信号で止まるわけにはいかない。


「ついたよ」


「え、あ。ほんとだ」


豊橋駅20:26新幹線の出発まではあと約40分。駅直結の地下駐車場にいつの間にかついていた。車内には彼が10代の頃にまとめたというプレイリストが流れている。


「サヨナラCOLOR、懐かしい」


「そうだね」


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 そこから旅立つことは
 とても力がいるよ
 波風たてられること
 嫌う人ばかりで
 サヨナラから始められることが
 たくさんあるんだよ
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そうだねと相槌を打ってみたけど初めて聞いた曲だった。だからこそ耳を澄ませてしまった。ダメだ、泣きそうだ。

本当は離れるために閉じていくこの時間がきらいだ。車内ではもう次の曲が始まっていた。


「ほら、行く準備して?」


頭にポンと置いてくれた手がすき。その手に甘え続けられたなら。


「うん」


ゴソゴソ、ガサガサ。
助手席ではこれ以上時間を稼げそうにない。もう席を立たないと。シートベルトを外し、ドアノブに手をかける。

だけど……。

振り向いて彼を見る。
きょとんとしている彼の懐に飛び込んで思い切りぎゅっと抱きついた。


「どうしたの、寂しくなっちゃった?」


「……」


「よしよし、いいこww」


「ちがうもん!フラップターで助けに来てくれたパズーから離れないシータの真似だもん」


ぎゅっに対して、ぎゅっを返してくれる彼の腕の中を抜け出すと、さっきまでの私みたいなにんまり顔の彼がいた。


「バルス!!!」


「照れ隠しが物騒すぎるでしょっww」


「だって!」


「さっきの仕返しだよ」


優しいハグと同じ気持ちのキスをして、車を降りた。まだ少し早いからタリーズコーヒーで季節限定品をおいしいおいしい!と飲み、明日は晴れるかなとか距離があることも忘れて話した。あっという間に時間になり、改札の前で次も早めに予定合わせられるといいね、なんて言って手を振った。

ホームに降りてまもなく、新幹線は定刻通りにきた。手元のチケットと自分の指定席の番号が合っているか3回確認して、席に着く。スマホの充電は特に必要ない。

新幹線は発車する。
赤信号が青に変わった。
私も同じく、前を向いている。
彼も同じく、きっと前を。

7/3/2024, 3:45:05 PM