ことり、

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過ぎた日を想う。

懐かしい、若かりし日を想う。
ぼくの傍らには、いつもきみがいたね。
いろんなことを一緒にした。
花見、旅行、登山、海、スキー、
クリスマス…。
こうして我らの滅亡を目前にして、
過去のなんと美しいことか。
今、我々は滅びる。


「…おはよう、母さん」
トントンと階段を降りてくる少年。
母さんと呼ばれた女性は、
「まあなんて顔。夢見でも悪かった?」と
声をかける。
少年は、食卓のパンをかじりながら
「うん、なんだか、
滅亡だとか滅びるだとか、暗そうな夢」
母は、チーズオムレツを
少年の前に並べながら、
「それじゃまるで、テラの今みたいね。
滅びゆくテラの、最後のメッセージでも
受け取ったの?本当に夢見使いに
なれるかもね」
少年は嫌そうな顔をしながら、
「やだよ、夢見使いなんて。
火星の中心の神殿で、
朝から晩まで経典読むんだろ?
俺はエンジニアになるの」
と、少年は時計を見て、
「あ、もうこんな時間!じゃ、
もう学校行くね」
慌てて家を飛び出した。
外は赤茶けた火星の大地。
テラーー地球からの移民政策が始まって
もう130年。自分の意思で地球に残った人も
いるとかいないとか。地球は、
たくさんの記憶と共に、
滅びようとしていた。

10/7/2023, 12:21:12 AM