孤月雪華

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【終わらせないで】


 メイはそれほど勉強嫌いというわけではなかった。
 受験勉強は苦ではなかったし、宿題もすぐに終わらせるタイプだ。
 それでもやはり、大学の長い講義は退屈である。 
 誰だってそう……だよね? 
 むしろ、多分だけれど、長時間の講義が楽しみで仕方ない人っているのかな。

 そんなメイにも、楽しみと思える時間があった。

 英語の授業で。


「やっほー。ハルヒロ!」

「ああ。今日も元気だね」


 メイが手を挙げると、ハルヒロは少し周りの目を気にしながら、よそよそしく手を挙げた。

 そんなに周りの目、気にしなくても良いのに。

 誰も見てないよ。

 ハルヒロはいつも通りだ。
 高校生の時から変わってない。
 ぼうっとしていて、優しくて、たまに本気出したらかっこいい。みたいな。よく分からない。

 メイとハルヒロは高校の時からの友達だった。


 ハルヒロは、そのままメイの隣に腰掛けた。

 英語の授業では、座席指定がなされている。
 たまたまだったけれど、ハルヒロと隣の席になることができた。

 それがメイにとって嬉しかった。
 いつも講義は基本的に一緒に受けるのだが、英語ではパートナー同士で会話したり、問題を解いたり。
 とにかく接点が多いのだ。


「ハルヒロ。何読んでるの」

「うーん……。本読んでる」

「知ってるし」

 
 メイは思わず、ハルヒロを見つめてしまっていた。
 まつ毛長いな〜。羨ましい。
 髪の毛さらさら。美男子っていうやつ?
 寝不足かなぁ。眠たそうにしてる。
 本を読む姿は、なかなか様になっている。

「どうしたの?」

「い、いや。なんでもない」

 視線に気がついたのか、ハルヒロと目が合ってしまった。
 不意に心臓が跳ねて、なんだか、ちょっと、気まずい雰囲気? みたいな。
 微妙な空気になってしまった。
 きもいとか、思われてない……よね。
 ハルヒロは優しいから、絶対そんなこと思わないよ。

 あー。

 何か話したいけれど、そう思えば思うほど、話題が思い浮かばない。

 いや、思い浮かばないわけではない。

 いろいろなことを気にして、取捨選択していくと、いつのまにか話題がすっからかん。
 
 10分後。講義が始まった。

 20分。30分。50分。

 やっぱり、この授業だけは、時間が経つのが早い。
 退屈なはずなのに。
 
 二人で問題解いて。話し合って。時間が余ったら雑談して。

 こんなのいつでも話せるのに。

 もう終わりの時間。

 こんな時に限って、先生が早めに講義を終わらせてしまった。

 終わらせないでよ。

 もうちょっと、ハルヒロと間近で講義を受けていたい。

 この後は同じ講義取ってないし。
 明日まで会えない。
 もうちょっと話したかった。

「メイ。講義終わったら飯食いに行こ。リュウも誘ってる」

 ハルヒロは頬を掻きながら、恥ずかしげに、そう言った。
 もしかして、心、読まれてる?

 それだったら、嬉しいな。

11/28/2023, 2:32:43 PM