フグ田ナマガツオ

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ぐしゃりと音を立てて、僕の体が潰れた。
これで213回目の失敗。

そして迎えるのは、今年214回目のバレンタインデーだ。
家を出ると、ポストの周りに大量の包みが置かれているのが見えた。
ざっくり確認したが、目当てのものはない。
落胆しつつママチャリで通学路を進んでいると、投げ入れにより、たちまちカゴがいっぱいになった。
学校に着くと、靴箱から箱が溢れていた。
昨日の時点で持ち帰っていた上靴を履き、教室に入る。
机の中から持ち主の分からないチョコレートを抜き出しながら、右斜め前の席を見遣る。

「あ、おはよう。幹人。朝から忙しそうだね」

気づいた葵が笑いながら振り向いた。
緩くウェーブのかかった髪が揺れる様子に、意識と視線が全て奪われた。

「嬉しい限りだよ」

と返すが、内心はうかない。
大量にもらったその中に、葵からのチョコはないからだ。
葵は幼稚園からの幼馴染であるが、僕にチョコをくれたことはない。
それどころか僕のことを異性として見てすらいないようで、毎年何かしらのアプローチをかけるが、気づかれてすらいない。
しかし、今日は高校生最後のバレンタイン。
こいつからのチョコレートをもらうため、僕はこうして何度も2/14を繰り返している。
高いところから飛び降りればリセットできる。
このことに気づいたのは全くの偶然だった。
それは2/14の放課後。
他校から群がる女性たちによる圧死を防ぐため、屋上に避難していた時のことだった。
今年はすべて受け取っている暇はない。
今年こそは、葵からチョコレートをもらいたいんだ。
何とか五体満足で包囲網を突破する計略を練っていたとき、唐突に風が吹いた。
ヤバいと思ったその時には、体が宙に浮いており、そのまま地面に叩きつけられた。
しかし、予想していた衝撃と痛みは訪れない。
代わりにふんわりとした心地の良い感触があった。
そして体の上には掛け布団。
時計の短針は7時を、日付を表す小さい文字盤は2/14を指していた。

その後、何度か試してみて、僕は高いところから落ちると2/14の朝に戻ることができるのだとわかった。
そして、すぐにチャンスだと思った。
何度もやり直せば、いずれは葵からチョコをもらえるはずだ。
そう思った僕は様々な計略を実行しているのだが、213回やり直しても未だチョコは手に入らない。
そうして214回目の朝礼を終え、3階の踊り場にあるロッカールームに隠れながら決意を固めた。
今回こそは葵のチョコをもらってやる。
ロッカールームから出ると、周囲は既に包囲されていた。
隙間を狙って駆け出すと、人波がうねる。
躱しながら、葵のもとに向かう。
一緒に帰ろうと、声をかけるために。

2/15/2023, 10:17:14 AM