お題:秘密の場所
ねぇ、悠ちゃん。約束してね。
絶対にここを誰にも教えないって。
そうしたら、ずっと会えるから。
時折、頭の中をよぎる言葉がある。
子どもの頃、仲良くしていた誰かの、柔らかく甘やかな声。
ねぇ、悠ちゃん。約束してね――……。
相手の声のトーンも、その時の自分の胸の高鳴りもきちんと覚えているのに、その人が誰だったのかがさっぱり思い出せないままなのだ。名前すらも分からない。
夕暮れの街並みを眺めたり、遠くの街にひとり旅に出かけたりした時、つかの間訪れる寂寥と共に、その言葉が去来する。
会いたい気もするし、会わないほうがいいような気もする。
相手の顔すら思い出せないのに、こんな風に感じてしまうのはおかしなことだと自分でも思う。でも、それが胸に湧き出す正直な感情だった。
名も知らない彼女と約束した場所も、今となってはちっとも思い出せない。
私はなんて薄情な人間なのだろう。
小さく自嘲する。
相手の顔も名も、そればかりか約束の場所も思い出せない私は、ただ心のなかでだけ、その子と再会を繰り返している。
もしかして、私が勝手に作り出した幻なのだろうか。そんな風に思ったこともある。でも、そうであるという確証は、その逆の確証と同じくらいに存在しないのだ。
はっきりした答えも見つからないまま、夢か現か分からないあやふやな記憶めいたものに、私は時おり耽るのだった。
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久々に執筆。10〜20分くらい。
3/8/2025, 10:20:23 AM