猫(筆に随ふ)

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 高浜虚子は自身の随筆の中で、俳人というのは、発句と脇句の中で、あるいはそれに続く付句の中で、場所を超えて、時代を超えて、それぞれが互いに挨拶を交わすことがあるのだといったことを言っていた。普通人々が言う「はじめまして」、「寒いですね」、「今日は良い天気ですね」よりもやや進んでいるという。

 鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ 去来
 一ふき風の木の葉しづまる 芭蕉

 --時雨が今日始めて降りました。木に止まっていた鳶が、その時雨に濡れて翼をはたはたとはたいてまたもとの通り収めました 去来

 --そうであった、その時私の見た景色は、さっと風が吹いて木の葉がはらはらと散ったが、すぐそれはもとの通りに静まった 芭蕉

 はじめまして、の挨拶の際に何も句を交わす者もこの時代にはなかなかあるまいが、しかし、自然のことや時事のことなどを互いに交わしながらコミュニケーションを取るというのは、後世に残して行かねばならないとても素晴らしい文化であると思う。
 挨拶というのはただの声かけではない。一言を述べた瞬間に交わされる、目には見えない沢山のものがある。そういうものを私は大事にしていたいと思う。

4/1/2025, 10:46:54 AM