俺は親から愛情を受けたことはない。
愛情の代わりに受けたものは、父の握り込めた拳である。母はそんな父を遠目から何も言わずに見ているだけだった。
俺が高校を卒業後、働けるようになってからは家を出た。その後彼らがどうなったかは、知るよしがない。
高校を卒業してからは、鳴りっぱなしの警告音が鳴り止んで、夜もぐっすりとまではいかないが、朝まで寝れるようにはなった。
妻に抱かれた生まれたばかりの自分の子を見ながら、昔のことを思い出した。
父親から愛情を受けたことのない自分が我が子に愛情を注げるのか。彼女が妊娠の報告をしてからそんな考えが何度も頭を巡っている。
良い父親とはなにか、父親らしさとはなにか。
正直、俺にはわからない。俺が父から受けたものは、握った拳以外は何も無い。
「抱いてみる?」
病床の上からの突然の問いかけにはっとする。
「あ、いや。いいや」
彼女が我が子を両手で抱えて、少しこちらに差し出したが、思わず断わった。
彼女は困った様子で再び我が子を胸に抱き寄せる。
「ほらー、お父さんですよー」
彼女が子供の顔をこちらに見えるように抱き上げて、少し戯ける。
俺は少しぎこちない笑顔で応えた。
「抱いてみる?」
「あ、いや」
「抱いてみて」
彼女が俺の腕を掴むと、くいっと自分の方に強引に引っ張る。彼女が俺の胸に子供を押し当てたので、思わず腕で器を作った。
彼女が腕を離した瞬間、腕にずしと体重がのる。俺は彼を優しく包み上げ、元いた椅子に居直る。
俺の悩みを知ってか知らずか、彼は屈託のない笑顔をこちらに向けている。
「なれるよ」
不意に話しかけられて、彼女に視線を移す。
「なれる。絶対になれる。私が保証する」
彼の頬を優しく撫でると、彼は再びくたくたと笑う。
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NaoNovel
11/27/2023, 12:56:24 PM