「バカんなりたいです」
東京。
人の波を泳ぎ、コンクリートロードのわきへ逸れ歩きながら、彼女は言った。
急だな、僕は彼女へ視線をやる。
黒いマスクから浮き上がる高い鼻。
彼女の横顔はかなり神妙、僕は知らない間に面倒な奴に向けてズンズン舵を切っていたらしかった。
「今もーバカじゃんって思いますよね」
流れのまま、泣き出すかと思われた彼女の目は、意外だ。
ンフフと笑い、僕を見つめた。
ふさふさなまつ毛をパッツンの前髪から彼女は覗かせて、僕は少し狼狽える。
「……君はどうすればバカになれると思う?」
彼女のツインテールが揺れ、「わかんない」
僕は彼女の詳しい境遇なぞ知らない。
ただ彼女とのこの貴重な夜に金を出す、僕は客だ。
「君にわかんないなら、僕にもわかんないなあ」
彼女はフーと息を吐き、ですよねと小さく言う。
派手なフリルのついた、かわいい服を、彼女は彼女の手でぐうっと握りしめていた。
「何欲しい?」
「……んー、アレ。おいしーごはん」
1/30/2024, 10:58:16 AM