三行

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「ねえ、覚えてる?あの日のアレ。
ほら、うちに泊まった日に見たやつ」
「ん?ああ!あれね!めっちゃ良かったやつ〜!」



同じバドミントン部だった彼女。
私は彼女とダブルスを組んでいた。
自他ともに認める親友である私達は、県大会までは行ったけれどやはりその先となると難しかった。

実力も、勿論理由の一つだ。
けれどそんなのは些細なことだった。
県大会1試合目をなんとか勝ち、次への練習を、と意気込んでいた所に彼女から呼び出された。
普段メッセージで気軽に話をしていたのに、「会って話したい」って。
いつもある絵文字も、顔文字もなんにもなかった。

その時点で良い話ではないのだろう、そう思った。



放課後。
クラスメイトが部活や帰宅で出払っており、2人きりの教室で伝えられたのが、転校するということ。
親が離婚したから、もう今週末には母とこの街を出て行くこと。

それを聞いた私はすぐさま脳内で計画を立てた。
「ねえ今日泊まりに来ない?」
「えっ何急じゃんね!?今アタシけっこーシリアスなこと言ったくない?」
いつもジャラジャラと色んなストラップを付けた携帯を弄ってばっかりの彼女が、手に持つことも無く本当に真剣な話をしていたものだから割と驚いてはいた。
転校も、離婚も、あまりにも急だ。
「そんなのはいーから。ほら、どう?急だし流石に許してくんないかなあ」
「うーん多分イケるでしょ、別にメッセ入れときゃ怒られないって」
だと思った。
まあ、そういう自由が過ぎてしまう所にも、少し思うところはある。でもそれは今考えることじゃない。考えたって私に出来そうなことなんてたかが知れている。それより今だ。
「おっけ、じゃあ連絡したら行こ」
「えっ部活は?」
「それどころじゃないし、今日くらいバックレても良いでしょ」
「え〜?アハハッ、そこはそんな感じなのかよ〜」
いつもの笑顔。
それを見るとなんだか、少し前までお互いの言葉しか耳に入って来なかったのに色んな音が入ってきた。

グラウンドで練習しているだろう声や、吹奏楽部の生徒の出す楽器の音。向こうの廊下からお喋りをしながら歩いていく女子生徒たちの、何やら盛り上がっている声。
不思議な感覚だった。彼女のことしか、考えられなくなっていたみたいだ。
ほんやりこの後のことを考えながら、私の一人暮らしの家へと2人で歩く。



家に着く前に軽く買い物をして、夜ご飯を一緒に作った。
相変わらず不器用な彼女。見ていてハラハラすることが多いから、簡単な事を手伝ってもらっている。
でもそういう会話すらもしていて楽しく、面白い。
食べて片付けたらテレビ見ながらまたお喋り。少ししたら私からお風呂に行く。
と、その前に。

「ねえ、どう?可愛くない?」
「いやマジかわいいー!最高じゃん!」
お揃いで色違いのもこもこパジャマ。私が森の葉っぱの薄い色で、彼女がサクランボが着いた薄い桃の色。
「写メ撮ろ〜!ほらもっとこっち寄って!いくよ〜!」
今になって、最近彼女がよく写真を撮っていたような気がしてきた。思い過ごしかもしれないけれど、思い出を残そうだなんて思っていやしないだろうか。


「わーんもうこんな時間!ほらもう寝なきゃ肌しんじゃうって!」
「あー、ちょっと待って」
寝室の方へ連れていかれそうになったけれど、それを止める。彼女は入浴後のケアを適当に済ませがちだ。
髪だって私が乾かしたし、スキンケア用品もシェアしているものもある。
まあ彼女は割と泊まる頻度が高いから、今使っている物は彼女の私物として置いているものだったり、一緒に買ったものだったりする。
「ほら、お風呂上がったんだから身体に保湿クリームでも塗っときな、私部屋の準備してくる」
「え〜今日はもう良くな〜い?ギリまで喋り倒した〜い…と思ったけどこれ新作のやつじゃん!なんかお肌にイイって聞くやつー!」
「新品だぞ、ありがた〜く使いな〜」
「ははー!たすかりまする!」
「ふふ、誰よそれ」
「あはは!終わったら私も行くからゆっくりやってて〜」
「はーい」


うん、いい感じだろう。
セッティングと試運転は終わった。後は迎え入れるだけだ。
と思ったと同時にノックの音。
「入るよ〜?」
「うん、ナイスタイミング。流石ね」
スイッチを入れる。
「もちろんアタシだしー?…っえ……」


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__プラネタリウム。

私と彼女が仲良くなったきっかけ。
課外授業の一環で、たまたま隣の席になった。
静かに見ていたけれど、終わった時に彼女は泣いていた。
星のまたたきに。その尊さ、今まで、それからこれからの年月を想って、泣いていた。
思わず声をかけたのが、私達のはじまりだった。


「綺麗……」
「……おいで」
軽く手を引いて、2人でベッドに横になる。
1人用ベッドだからちょっと狭いけれど、もう慣れたものだ。
仰向けになって、この暗い小さな部屋に広がる、精一杯の星空を見上げる。

「ねえ、この為に呼んでくれたの?」
「うん。また2人で見たくて」
「え、わざわざ買ったの?やば、……嬉しい」
「私も、一緒に見れて良かった」

プラネタリウムに行っても良いんだけれど、移動する時間もお金も足りない。待っていられない。今週しか、ないんだから。

部活のこととか、本当はもっとこれからの事を話し合うべきだったのかもしれない。
でもこの夜だけは、2人であの時のように、ただ静かに見上げていたかったんだ。





「いや〜あたしの為にプラネタリウム買って見せてくれたの本当に健気すぎ…!!思い出して泣いちゃう…」
「えっマジ泣きじゃん…!ちょっと、いくら私の家だからってあんまり泣かないでよ、私が泣かせたって怒られちゃうでしょう」
「むりむり、泣いちゃう〜…!うう、子供産んでからほんと涙腺弱くなったかも……」
「まあそれは私もだけど」
「ほんとだ泣いてんじゃん…!」
そういって、2人で笑い泣き合う。あの時ぶりの再会だ。
お互い大人になっていて、家庭を持っていた。
今日は子どもは旦那に預け、私の家でお茶しながら久方ぶりの談笑。


でも、ちょっと不機嫌そうな声色で泣いている私の子供と、それに格闘する旦那の話し声がうっすら聞こえる。
「あ〜…あの子大丈夫かな…ごめん、うるさかったら」
「あははっ、いーのいーの!ウチなんて2人も居るもんだから最早やかましいまであるし慣れてる〜!」
快活に笑う彼女。うん、いい笑顔。
「綺麗になったね」
「なぁにいきなり。そんなのお互いでしょ〜!
てかなんかあったらいつでも聞いてよね、一応先輩だし?」
「数週間だけだけどねえ?」
そう言った途端、一際大きく泣く私の子の声が聞こえる。
「でも2人もいるんだから経験値も2倍よ〜!
あ〜てか私あんたの子会いたいー!ちょっとだけいい?」
そんな気を使えるような人になったんだな。
昔もよくしてたと思うけれど、より上手くなっている気がする。
「勿論いいよ、私もちょっと様子見たかったし、ありがとう」
「あはは!今度は育児奮闘中の仲間だからね!パパさん達ともだけど!」
「まあ、こっちの旦那はようやく自覚してくれたかな〜って感じだけど。でもやっぱ助かるよね、ちょっとでもこっちに参加してくれると」
「そうそう!ま、一緒に頑張ろ〜!」
旦那と子どもの元へと向かいながら会話する。

昔も今も、ある意味戦友で、親友の子だ。
新たに増える仲間である旦那たちとも一緒に頑張りたい。




「仲間」2023/12/11

ダークモードにするとそれっぽく味わえると思います。
こんなに長い文章、本当にちゃんと読む人なんているのかな。

12/10/2023, 5:31:36 PM