父の運転で揺られる車の中。
反抗期真っ盛りのわたしと、口下手な父は会話らしい会話はしない。助手席でケータイをいじる、車に搭載されたカーナビが、時々道案内をする。画面をなんとなく見てみると、この車を示す矢印が青い部分を通過している。
「これ海の上を走ってる」
「ここはな、何年か前に埋め立てられて出来た道なんだよ」
「ふーん」
わたしは再びケータイに視線を戻す。
「買い替えないの?」
「まだまだ走れるからな」
父は、それから何年も同じ車に乗っていた。わたしが、小学生の高学年から大学へ入学する頃まで。
そして、わたしは高校を卒業してから車の免許を取得した。手入れされた車は、長年乗っていた割にはきれいだ。わたしは運転席に乗り込んだ。助手席には、父が乗っている。わたしは、車を走らせた。
「この道変わったんだね」
返事が無くて助手席を見遣れば、父はぐっすり眠っていた。そう言えば、子供の頃のわたしも父の運転している車の中で、眠気を誘われて家に着く頃には眠ってしまっていた。
父娘を乗せた車は海の上を走る。この先も、こうして道は変わるのだろう。カーナビは、相変わらずのへんてこな道案内をする。古いカーナビは、今年で引退する。さびしい気もしたけれど、二人きりのドライブを忘れることはないだろう。
「記憶の地図」
6/17/2025, 8:23:22 AM