ガードレールの端っこに、片手分の手ぶくろが置かれている。いや、置かれているというか、刺さっているというか、立っているというか、そんな感じだ。
誰かが落としていったものを、通りかかった人が分かりやすいようにそうしたのだろう。
「ガードレールが手挙げてアピールしてるみたいだね」
信号待ちをしながら向かい側のガードレールの手ぶくろに気を取られていた俺に、隣に立つ彼女が話しかけてきた。
ガードレールが手を挙げている、確かにそう見えなくもない。
「お前の片割れはここにいるぞーって、落とされなかったもう片方へアピールしてるんだよ。迎えに来てくれるの、待ってるのかも」
彼女の話し方は、ものに感情移入しているようで面白い。俺は単に、人間があそこへ手ぶくろを置いた意図しか考えていなかった。
「ここで待ってても迎えは来ないと思うけどなあ」
虚しく手を挙げている手ぶくろを見て、俺は言った。
だいたいの手ぶくろはああなってしまったら、誰にも迎えに来られずに、雨風にさらされてボロボロになって、いつの間にかどこかに行ってしまうものだと思う。
彼女は俺の意見に不服なのか、少し頬を膨らませた。
「優しい持ち主さんがきっと、もう片方を連れて現れるよ。私はそう信じたいな」
離ればなれになってしまった一対の手ぶくろ。ガードレールの端で存在を主張するあの手ぶくろが、片割れと再会できたら。
彼女の話をきいていたら、俺も、そんなハッピーエンドが少し見たくなってきた。
信号が変わる。あの手ぶくろへ近づいて、通り過ぎる。その時、どうか片割れと再会できますように、と少し祈ってみた。
12/28/2024, 8:44:51 AM