注意 見方によっては同性愛描写かもしれません。悪しからず
「いいねその髪、似合ってる」
放課後、私の隣の席に座る貴女はそう言った。柄にもなく髪を巻いて登校した日だ。冴えない私が精一杯飾ったところで、誰も私を見てくれない。そう思っていた矢先だった。
「えっ」
「いいと思うよ」
嘘はつかない人だ。竹を割ったような、清々しい性格で曲がったことが嫌いな人。好かれるために誰かに媚びるとかをしない子。彼女は私を気にすることなく、スマホを弄り始めた。
私達は二人揃って、馬鹿にされることが多かった。彼女は性格、私は見た目を。だからかは分からないけど、私達はいつも一緒にた。多分、友達と思っているのは私だけだけど。
「……ねぇ、聞いてる?」
「えっ」
「帰らないの?」
帰ろう、と声をかけていたらしい。私があまりにもぼんやりしていたから少し苛立ったように。薄っぺらい鞄を持って、急いで立ち上がった。あまりにもバタバタとうるさい私を見て、彼女は薄く微笑む。私達は校舎をすぐに出て、帰路についた。人気のない通学路が、何故かいつもより長く感じる。
「マジで似合ってる、髪」
「いいよお世辞は……私なんかに似合うわけ、」
「似合ってる」
少し怒ったように言い返してくる。有無を言わさないように強く。
「その方いいよ、いつものもっさい三つ編みより」
「……もっさい……」
ダサいと思われていたのか、いつもの髪型は。
「明日もして来てよ」
軽く言ってくれる。たまたま早起きしたからできただけ、と言ったらどう返されるだろう。多分、『じゃあ、モーニングコールするわ』とか気だるげに言うに決まってる。
「……そっちも巻いてみたら?私より似合うよ」
「はぁ?」
「だって……」
自然なキューティクル、キリッとした顔立ち。美人の部類だ。美人は何をしても様になるのはこの世の条理だ。私も見たかった。自分の見た目を気に留めない彼女が、少しでも手を掛けた様を。
「私、嘘とか冗談、好きじゃないんだけど」
「知ってるよ……」
「……」
彼女の顔を見れなかった。顔を背けるしかできない。そんな私の鼻を、彼女は思い切り抓った!
「ふがっ、」
「まだ夜じゃないのに寝言言ってるみたいだから」
思い切り手を引き、顔を強制的に上げさせられる。痛がる私を無視して彼女は続けた。
「私、アンタだから可愛いって言ってんだけど」
軽口だろう。彼女にとっては、ただの褒め言葉だ。なのに、どうしてだろう。顔が熱い。耳も首も、多分真っ赤だ。
「……じゃ、帰るわ」
そう言って背を向ける彼女を、ただ見守ることしかできなかった。
心臓がうるさい。ただ肯定されただけなのに、どうしてこんなに恥ずかしいんだろう。いつも一緒にいるクラスメイトが髪型を変えたとかいう、彼女にとっては些細なことだっただろうに、私にとっては大事だ。些細な言葉一つで、ここまで有頂天になるのだから。
「……明日も髪、巻こうかな」
少し早く起きればいい話だ。明日の彼女は何て言ってくれるだろう。それを楽しみに、一人で帰路についた。
題目 『些細なこと』
9/4/2024, 4:24:48 AM