蝉が鳴く低音。風鈴が鳴らす高音。空気を掻き回す扇風機の音。
祖父の家。両親が共働きだからと預けられた夏休み。畳の上を見て、天井の木目を数える。
あ、あれ猫みたい。あっちは犬。こっちはーーー。
ぼーっとすることは好きだった。思想の海に潜り、なんでもないことをぼんやり考えることが好きだった。そうだ、あの時、私は。
「目、開けて寝てるのか?」
いきなり顔面に飛び込んできた顔に、思わずヒュッと声にならない音が喉から出た。彼はこの家の持ち主で、ああそうだ。彼の実家を取り壊すにあたって手伝ってくれと言われて。
彼の家は、私の祖父の家とよく似ていた。
「昔を思い出して、まして。」
「実家こんな感じだったっけ?」
「いや、おじいちゃんち。」
そういえば祖父の家はどうなったんだっけ。耳に残る蝉の声と風鈴と扇風機の音がここにも蘇ってきそうだ。
祖父の家とは違う、家の気配。でも似ている。風や空気が、家を通って、私は。
ぎゅ。
「いたたたたた!!!」
いきなり両頬をつねられ現実に戻る。いつも彼は思考の海に潜っている私を引っ張り上げてくる。少しぐらい浸らせてほしい。
「瞑想に来たの?手伝いに来たの?」
「お手伝いです……。」
思考を読んだかのような言葉と共に呆れる彼へ、痛むほおをさすりながら答えた。
【真夏の記憶】
8/13/2025, 8:57:38 AM