視線の先には
喫茶店。予備校帰りにいつもは数人で来るが、今日はたまたまふたり。初めて。
本人はきちんと会話できてるつもりなんだろうけど、そんなことはないと私にはわかるわけで……。
彼が止まることなくスプーンで掻き回している。ブラックなのに何をかき混ぜることがあるのか。
落ち着きのない彼の視線の先をこっそりたどる。
掲示板だ。左隅はお店のお知らせ。従業員募集中。今月の定休日。その他のスペースは、町の情報だ。
なになに。
迷子のワンちゃん探してます。
熱中症予防法。
俳句教室始めます。
無料法律相談開催日。
何か気になるのかな。他は……。
新作映画、予約早割。
今年もやります、花火大会。
ふむ。なるほど。
ん?もしかして。
いや、まさかね。
んん、でもそうなのかな。そうだったらどうしよ。
そうだとしても、そもそもどっちかな。前に映画が好きって教えたことあるけど。その場合ならそんなに問題ない。はず。映画館に行くだけだから。
でも花火大会だったらどうしよ。浴衣着なきゃだよね。着なくてもいいんだろうけど。でもどっちかだけ浴衣って変な感じもするから、ふたりで合わせたほうがいいかな。っていうか、別にまだ付き合ってもないのにふたりで浴衣もおかしいか。
勝手に浴衣姿で並ぶのを想像した。頰が赤くなるのを隠すように急いでカップに口をつけた。
彼が咳払いをしてから口を開いた。
あ、あのさ。
な、なに。
俳句って興味ある?
えぇ~。そっちなの〜。
7/20/2024, 1:05:35 AM