クロノネコスキー

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地味な女がいた。
どこにでもいる
なにひとつ取り上げるようなところのない
普通の女だった。

夏が過ぎた。
地味な女にはよく似合う
暑くもなく寒くもない、
そんな季節になっていた。

川は静かだった。
水面に映る青空はどこまでも澄み渡っていた。
水辺に立つ彼女は身長もあって
とても映えて見えた。

雨が降っていた。
空から降る幾千幾万の雨粒が
地面を容赦なく打ち付けている。
そんな中を彼女は元気よく駆け出し
曇天に沈みがちだった僕の心を
少しだけ軽くした。

暗い闇の中で心細く震えていると、
そこに現れた影に酷く驚いた。

しかしそれはキミで、
僕はすごく安堵したのをおぼえている。

君の名は【ススキ】。

どこにでもある、
とくに気にすることも無い
秋によく見る背の高い雑草だった。

でもその実、
秋の七草にも数えられる
秋を彩る優美な植物とされているのだという。

また別の呼び方として【茅(萱)】とも言うのだそうで、
雨風を凌ぐ茅葺き屋根にも使われる【茅】として
その強く丈夫でしなやかなところで
人の暮らしを支えて来たのだとも知った。

『幽霊の正体見たり枯れ尾花。』

という言葉に出てくる尾花もまたすすきの別称。

暗き闇に佇むその白くなびく穂先を見て
人は驚いたりしていたのだろう。

とはいえ、その実を知れば、
とても身近で手を伸ばせばどこにでもある
そんなススキにむしろ癒されたりしていたのかもしれない。


11/10/2023, 11:34:33 PM