霜月 朔(創作)

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さらさら


さらさらと、
月の光に輝く銀糸のような、
貴方の髪が、
私の手の中から、
滑り落ちていきます。

壊れてしまいそうなほど、
細い細い有明の月だけが、
そっと見守るこの部屋で、
私と貴方は、二人きり。

先程までの、
怯えたような表情は、
すっかり影を潜め、
人形の様な微笑みさえ浮かべ、
私の元にいるのです。

人の群れから追い出された私に、
優しい手を差し伸べ、
温かな心を教えてくれた貴方。
そんな貴方は、私の全てなのです。

ですから。
私は貴方の全てになりたいのです。
貴方は私の全て。
私は貴方の全て。
それで、良いと思いませんか?

世間に蔓延る、
あんなに醜いものなど、
もう見なくて良いのです。

これからは、貴方の、
冬の湖面の様なその瞳には、
私だけを写してくれれば、
良いのですから。

さらさらと、
砂の落ちる音がします。

それは二度と元には戻らない、
砂時計の中の時の欠片が、
時を刻み、落ちていく音?

それとも、私と貴方を、
世間の冷たい視線から隠す、
砂上の楼閣が崩れていく音?

でも。
もう、良いのです。

私と貴方の魂は、
この醜い世の中から、
遠く離れた場所で、
永遠となるのですから。

これは、二人だけの愛の儀式。
一点の曇りもない銀の刃で、
お互いの胸を貫き、
溢れ出す朱で、
お互いを染め上げ、
永遠を誓うのです。

さらさらと、
全てが崩れていく音が聴こえます。

さぁ、儀式を始めましょう。

――愛しています。
貴方だけを、永遠に…

5/29/2025, 6:36:52 AM