『一輪の花』
ちょっとした事だった。
進路のことで親と喧嘩して苛立ってて、
返却された模試の結果が良くなくて、
顔色の悪い僕に大丈夫?って顔を覗き込む君をなんでもないって押し退けた。
情けない自分を君に知られたくなかった。
その時の、傷ついたような表情を隠すように笑う君の顔が頭から離れない。
21時、家の固定電話が鳴る。お母さんが対応するがどこか様子が変だ。
青ざめた顔で僕に電話を代わる。
「あのね、………」
冷や汗が止まらない。電話もきらずに教えてもらった場所に走り出す。
20分走り続けて着いたのは大学病院だった。
看護師さんの制止を振り切って彼女の苗字を探す。
ドアの前には彼女の母がいた。僕にドアを開けてはいるように促してくれる。
看護師さんの声はもう聞こえない。
真っ白なベッドに横たわるのは、死んだように肌の白い彼女だった。そう、死んだように。
血の気のない頬を撫でる。
「眠っているみたいでしょう?」
いつの間にか彼女の母が隣にいた。
「信号無視の車に轢かれたの。小さな子供を庇って」
返事ができなかった。このまま目が覚めないなんて信じられないくらい、彼女は綺麗な顔をしていた。
ふと、隣の机に置いてある花瓶に目が止まる。
「この花は?」
「花?あぁ、これね。あの子がずっと握ってたの。車に轢かれても絶対に離さなかったのよ。」
青い小さな花弁の華奢な花。
僕の好きな花。
昔、君に似合うって送った花。
僕らの大切な思い出の花。
あぁ、そうか。今日は僕の誕生日だった。
君の笑顔を思い出す。
キュッと細まる目に、両頬にできる小さなえくぼ。
眉を下げてふわりと花のように笑う君。
もう一度だけ、もう一度だけでいいから君の笑顔が見たかった。
一輪の花が風にふわりと揺れる。
2025.02.24
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2/24/2025, 11:08:50 AM