子供の頃は
パチッと、あえて音を立てて駒を置く。
年上の彼女が歩を滑らせて動かす。
僕はまた、パチッと音を鳴らして駒を置く。
部屋を掃除していたら、子どもの時に遊んでいた将棋盤が出てきた。ルールは知っていると彼女が言うので、久しぶりに触ってみたところだ。
ねえ、なんでそんなふうに音がするの?
ふふっ、と僕は得意げに笑い、
僕は選ばれた人間だからね、と言った。
そういうのいいから。 彼女がまた滑らせて駒を動かす。
練習したから。僕も子どもの頃は、そういうふうに動かしてたよ。あと親指と人差指で摘んで。でもかっこよくないから練習したんだ。ほら、と言ってゆっくりやってみせた。
飛車を人差し指、中指、薬指の三本指で摘み上げ、駒下を親指で軽く支えたあと、人差し指を下に潜らせて中指とサンドイッチする。盤上に角度をつけて置く。パチッといい音が響いた。
近年はスマホのアプリでやるばっかりだったので、この感触は本当に久々だ。やっぱり実物はいいな。駒に命を感じる。
いいねえ、かっこいいねえ。 彼女が2本指で角を摘み上げる。
クックック。素人め。その所作が不作法だというのだよ、と心のなかで密かに嘲笑う。
王手ね。
え。
あ、違う。王手飛車取りね。
え。あっ。え?
もう詰んだでしょ。私の勝ちね。
え? あ、あれ?ま、待って。それ待って。
こらこら。男でしょ、待ったなし。カッコつけるところ違うんじゃないの? 彼女が笑顔で言う。
……参りました。
6/23/2024, 10:11:00 PM