―――人を殺す言葉ってなんだと思う?
聞き覚えのある質問に振り返る。彼はスマホから目を離さないまま、つまらなそうに動画を眺めているだけ。
最近よく見かける広告のフレーズだった。ダラダラと長ったらしい語りが始まりかけたとき、その無機質で責めるような声が止まって代わりに可愛らしい女の子の歌声が流れた。生き生きとした明るく愛嬌たっぷりの甘い声。さっきまでつまらなそうだった彼を笑顔にさせる声。
人を殺すのに、言葉は必要なのだろうか
その声だけで十分なのでは
嫌な女だなと我ながら思う。推しなら自分にだっているし趣味であることはお互いに理解して必要以上に踏み込まないようにしている。タガを外れるようなら殴ってでも止めることを約束しているが、趣味の範疇を超えたことは一度もないのだ。そこは心配していない。
嫉妬、というにはあまりにも根が深いし、そもそも彼とか彼の趣味とかは関係ない。自分のトラウマやコンプレックス、不安や恐怖がぐちゃぐちゃに絡まってどうしようもなくて、画面の向こうの女の子に八つ当たりしたいだけだろう。だから彼の趣味には関わらないようにしている。
自分が、可愛い女の子だったら、なんて
でも、きっと、そうじゃなかったから。そうじゃなかったからこうやって彼の隣で、手を繋いで、並んでいられるのだ。
勝手に嫉妬して勝手にマウントとって満足して忙しい生活をしていられる。自己中だなとか自分が1番よく分かってるから何も言わないで。
【題:手を繋いで】
3/21/2025, 2:54:44 AM