『ぬるい炭酸と無口な君』
待ち合わせの19時まで、まだ30分もある。
楽しみ過ぎてワクワクとか、そういう心躍る理由で早く着いたワケではない。ましてや、「待たせては悪い」なんて紳士的な理由でも全くなくて、単に土地勘の無い場所での待ち合わせだから、時間の逆算が出来なかっただけだ。
彼女との初顔合わせだと言うのに、僕は気乗りがしない。会う約束した時からずっと胃の下の方が重苦しい感じになっている。それというのも、僕は自分の容姿に自信がないからだ。写真は互いに送り合ったし、僕がイケメンではない事は彼女も知っているはずなのに、それでもやっぱり、写真より劣る現実を見せることに引け目を感じていた。例えて言うなら、キンキンに冷えた炭酸と思って飲んだら、ぬるい炭酸だったくらいのガッカリ感だろう。
確かに写真の本人なのに、何かが違うのだ。
30分も前に来てしまって、僕はやることがなくスマホを取り出した。彼女から着信とLineが入っている。
──ごめんね、早く着いちゃった──
慌てて周りを見回すが、それらしい女性はいなそうだ。待ち合わせ場所を間違えたのだろうか…
急いで返信をする。
──僕も着いてるよ。どこにいるの?──
「はじめまして。早いね。って、わたしもだけど」と大笑いしながら恰幅のいい女性が近づいてきた。ずっと僕の斜め前にいた年配の人だった。
僕は、その日、無口になってしまった。
何年も前の痩せていた頃の写真と、歳のサバ読みは、もう詐欺以外の何ものでもなく、ぬるい炭酸どころの話ではない。コーラだと思ったら、めんつゆだったくらいの衝撃だ。
おしまい
(彼女から見たら「ぬるい炭酸の無口な君」ってことで)
8/3/2025, 12:31:19 PM