猫背の犬

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「元気?」
もう動くことはないと思っていたトークルームは、一件のラインで半年ぶりに日付が更新された。
「あ、既読ついた」
「そりゃつくだろ」
「ブロックされてると思ってた」
「しねぇよ。するわけねぇだろ」
ぎこちない会話のキャッチボールを繰り返したのち、この機会を逃せば、きっとまたいやそれこそ未来永劫に話せなくなってしまうと思った俺は「少し話すか」と通話を切り出した。
「え」
「都合悪りぃか?」
「いや違くて上手く話せないかもしれないから返答に困った」
「俺が適当に話すから別にいい」
「できないでしょ。口下手じゃん」
「舐めんな。話してない間に俺だって成長した」
「こっちはなんも変わってない。いやマジで上手く話せなくて黙ってばっかになるかもよ」
「だから構わねぇよ。これを機にまた頻繁に話して慣らしていけばいいだろ。……もういいからかけんぞ」
断われるのは怖くて半ば強引に通話ボタンをタップする。一回、二回と重なっていくコール音を聴いていると、そのコール音に合わせるように脈を刻むスピードも早まっていく気がした。五度目のコール音のあと受話器から聴こえてきた控えめな「もしもし」に熱くなる胸。懐かしさと嬉しさが入り混じって変な感じだ。きっと今度は失敗しない。今度こそ上手くやる。固い決意を胸の中で唱えながら頭に浮かんだ言葉を紡いでいく。崩れてしまった関係をゆっくりと時間をかけて修復していきたい。足りない部分は補い、隙間を無くすように縫い合わせる。かつてこいつが俺にそうしてくれたように今度は俺がこいつのことを満たしてあげたい。ただそれだけだった。
「ねえ、怒ってないの?」
「お前の方こそ」
「怒るわけない」
「だったら俺も同じだ」
「……ありがとう」
「……あのとき、逃げてごめん。弱くてごめん」
「それはこっちも同じだから。なんだかすれ違っちゃったみたいだね。でもさ……なんていうの……その、燕と同じで元の場所に還るんだね」
「なんだそれ」
「詳しく聞きたい?」
「ああ、ぜひ聞かせてほしい」

7/11/2023, 3:27:45 PM