トト

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村上春樹の作品には、意識や無意識が重要な役割をになっている事かよくある。

内面の闇や無意識が作用して、現実とも幻想ともつかない世界へ行ったり、現実世界と幻想世界を行き来したり、過去へ飛んだりするのが特徴ともいえる。

以前、村上春樹がお金を拾うエピソードを少し取りあげたが、あれも村上流に解釈するとそういうものが作用した結果なのかも知れない。

私は夜逃げをして街をさまよった。比喩でもなんでもない、正に現実の話なのだが、本人の意識としては現実だけど、なんだか現実でない世界をうろうろしていた気分であった。

村上春樹の小説みたいに、夜、建物の陰で目をつぶって休んだ時、無意識から異世界へでも抜けてくれたら良いのにと何処かで願っていたかも知れない。ぜんぜんそんな世界へは行けなかったけれども。

懐中の金が尽き、私の考える事は食べ物の事ばかりに占められた。空腹になれば私は原始的な生物と何らかわりはなかった。

人は欲望を意識する。

常識では意識は脳が作り出していると思われているが、近年研究は進んでそんな単純なものでないという説が良く聞かれる。

例えば脳のない生物は消化器官が脳の代わりをする。消化器官と脳は密接な
関係があって、精神的なショックを受けると、腸や胃がやられてしまうのである。

だから人は脳以外にも消化器官でも考えているのだ。

更にいえば、腸内にいる何兆とも知れない微生物も人間の意識に影響を与えているとか、

つまり、「私」というパーソナリティがパイルダーオンしてマジンガーZを動かしているみたいな意識や無意識は違っていて、

人間は脳や消化器官や、その中の微生物や、もっといえば指先で考えたり、おしりで考えたりする場合があって、その集合体が、どうやら「私」らしいのである。

だから、自分でも信じられない行動をとってしまう事が、人間には起こってしまうのは仕方ないのかも知れない。

抑えきれない欲望、衝動は一体どこから湧き上がるものなのか?

なお、意識や無意識はまだまだ研究段階でハッキリした答えは出ていないのである。

だから村上春樹の小説はデタラメを書いている、とは誰も言えないし、それどころか世界中の読者が支持している。

私は夜の街を虚しくさ迷い、1円も拾うことはなかったが、

結局はこうして社会復帰してしまった。村上春樹は幾らかの高額紙幣を拾ったが、

考えてみれば私は数百万円以上を拾ったようなものである。

暗くて寒い、夜の建物の陰で、目をつぶった私は、無意識や意識の力によって幻想のトンネルを抜けて、現在に来ているのかも知れないのだ。

3/2/2024, 2:45:05 AM