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記憶のランタン(オリジナル)

骨董品が雑多に並ぶ店に、それはあった。
『記憶のランタン』
見た目は普通にオシャレなランタンである。
店主に聞くと、記憶を取り出してしまっておけるうえに、火を灯せば煙のようにわいて出て、消えてなくなるものらしい。
そんな解説を受けて胡散臭く思っていたのだが、妻が思いのほか食いついた。
防災用品としても使えると押し切られ、買って帰ったのだった。

自分はすぐに興味を失い買った事さえ忘れていたが、妻は色々実験をしていたらしい。
ある時、私を呼んだ。
「あなた、見ててね」
ランタンに火を灯すと、ボワリと何かが吐き出され、部屋いっぱいに広がった。
それは、まるでプラネタリウムかプロジェクションマッピングのような映像だった。
美しく壮麗なオーロラが、頭上に広がっている。
どこかで聞いたことのあるような景色だなと、口をあんぐりあけて見惚れていると、横で妻が、
「就職5年目の海外旅行先、アラスカで見たオーロラの景色よ。当時お付き合いしてたあなたにも見せてあげたかったって話した事あったでしょ」
と言うので、驚愕に目を剥いた。
「そんな大事な記憶、抜いて燃やしてしまって良かったのか?!」
「大丈夫、こうしてまた見る事で、脳に戻るから」
妻はそう言って空を見上げ、満足そうに微笑んだ。

その笑顔を見ていて、泣きそうになる。
美しいものを見た時に、一緒に見たいと思ってくれるのが嬉しい。
見せてあげたいとか、一緒にいたいと思える相手がいて、その人と伴侶となれている事の幸せを噛み締めるのであった。

11/18/2025, 12:36:13 PM