平民出身であるから、理不尽な要求にもたびたび頷かなければいけない。メルルには後ろ楯がないのだ。
高官や来賓を招いての占術が毎日行われるのだが…メルルはちょっと疲れていた。
城の中庭のベンチにヒムと2人で座っていた。ここなら余計な人も来ないし、誰にも言えない様なことも言える。
「ちょっと…裏の探り合いのようで疲れる時もありますね…」
「おう」
「子供が幸せな結婚式するにはどちらの貴族に付いたらいいかとか、どの子に家督を譲ればいいかとか。遺産を残すにはどの事業を拡張すればいいかとか…」
そんなのばかりだ。
どのような答えが喜ばれるかは分かるが…ごまかしの効かない仕事だ。へそを曲げられたことも一度や二度ではない。何より立場があるからこそ厄介だ。
「ほぉ…」
聞いているヒムは怪訝な顔で相づちを打つ。
メルルがぐったりと日なたのベンチに座っていたので心配になったのだ。
「何より箔がつくからと、パフォーマンスで依頼が来ることもあります」
「はく?」
「箔…ですね」
要するに神秘の占い師が認めたという事実が欲しいのだ。
「お叱りを受けたこともあります」
そんなはずはないと、どうしても未来を認めたがらない年寄りは多い。
「んだそれ」
ヒムが肩をいからせて感情を露にする。
「そいつ殴ってやろうか」
「えっ…」
「ふんじまってよ、海に投げ返してやろーぜ」
「海に…」
そんなの、ダメですよ…という前に。
メルルは笑いだしてしまった。
「やだ、ヒムさん……ふふ。おかしい、殴って…殴っちゃうんですか?死んでしまいます」
困ったメルルを救おうと、とんでもないことを言い出した彼氏がかわいくて。人間同士の複雑な社会を知らない発言は、メルルを何度も占い師の戒めから解き放ってくれる。
「海に……考えたこともありませんでした…ふふふ。面白い」
メルルはまだ笑っている。年寄り達がどぼんどぼんと海に落ちていくのを想像してしまった。
「メルル…さん??もしもし?」
ヒムは、そんなに変なことを言っただろうかと、笑い転げる彼女を頭を掻きながら見ていた。
10/7/2023, 11:18:07 AM