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特別な存在


突風で地面から桜色が舞い上がる。
すでに花は散り始めており、歩道には踏まれて黒ずんだ花びらと、まだ舞い降りたばかりの真新しい花びら。
しばらく足元を見つめてからわたしは顔をあげる。

待ち人来る。
初詣でひいたおみくじにあった言葉だ。
なんとなくここにいれば会える気がしている。

何十年も前の一方的な口約束。また会おうね。絶対だよ。
あのときわたしは心の中で誓った。必ずあなたに再会すると。
風は依然として強い。顔にまとわりつく髪を払いながら目を凝らす。

前方からなにかがやってきてわたしの前でとまった。
迎えにきたよ。
そう言われた気がした。

あの頃と変わらずこちらを真っすぐ見つめる黒い瞳。
わたしは今日ここに別れを告げて旅立つ。
大好きで特別な存在とともに。

3/24/2024, 5:36:44 AM