あると

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『過ぎた日を想う』

 もしあのとき、彼が森に行かなければ。

 白い布の上に置かれた彼の愛刀を眺めながら、そんな意味のない後悔を思う。
 この刀は、もう彼の腰に纏われることはない。

 けれどきっと、この未来は変えられなかったのだ。

 彼の故郷でもあるあの森。
 綺麗な鉱石が採れる森。
 いつの間にか、領主の手の者に支配されていた森。
 そのせいで他の集落と交流も許されず、魔物が巣食う鉱脈の中で、鉱石を掘り続けた森の住民たち。

 住民たちは、とうとう謀反を起こした。
 秘密裏に協力者を集め、犠牲を払いつつも支配者を討ち取った。
 その協力者の中に、彼もいた。
 小さな子どもを庇ったと聞いた。

 無理だったのだ。
 苦しむ住民たちに、手を貸さないわけがない。
 目の前の子どもを見捨てるわけがない。

 『彼』だから。

 だからきっと、この未来は変えられなかった。
 
 それでも……

 私は、主を失った刀をそっと撫でた。

10/6/2024, 11:02:54 AM