無音

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【64,お題:きっと明日も】

「きっと明日もいい日になるよ」

これは僕の大切な君の口癖だ

どんなに嫌なことが続いた日も、曇り空のように沈んだ僕の気持ちを
晴天に引っ張りあげてくれたのは、いつも決まって君だった

僕は嫌なことがあるといつも君に言いに行く
神社の階段を上って本堂の裏側、紅葉の木がたくさん生えた裏山を少し登った先

急斜面が開けた場所で、僕の背の倍以上ある大岩に腰かけて君はいつも暇そうに船を漕いでいるのだ

「モミジっ!来たよ!」

「んん~?あ、来たんだね~いらっしゃ~い」

よいしょ、と大岩から目の前に飛び降りてきた君
その背丈は僕より少し高い、いつか越えてやるからな!と言うと、頑張ってね~と返された

「今日はどんなことがあったのかな~?」

「それがさぁ、聞いてよー」

思い付く限りのことを喉が枯れそうになるまで喋る
先生に怒られたこと、テストの点が悪かったこと、そのせいで父親に殴られたこと

「あー、その顔のアザはそういうことね」

「マジで最低だと思わない!?父さんだって勉強できないくせに!」

うんうん、と相づちを打ちながら僕の話を聞いているモミジ
一通り話し終わったのを察すると、それじゃあ、と向こうから切り出した

「今日楽しかったことを話してよ」

「楽しかったこと~?」

図工で描いた絵が褒められたこと、サッカーで沢山シュートを決められたこと
嫌なことよりも数が少ないけど、その瞬間は物凄く楽しかった

「楽しかったこともちゃんとあるじゃん」

「えーでもなぁ...」

「大丈夫大丈夫」

いつも決まって言う、君の口癖

「きっと明日もいい日になるよ」

にこっと首をかしげて微笑む姿は、まるで暖かな太陽のようで
この言葉を聞くたびに、僕はとても安心するんだ

「もう暗くなるから、また明日おいで」

帰るように促されて渋々帰路につく、明日はどんなことを話そうか、早く明日にならないかな
僕の頭のなかはその事でいっぱいだった

9/30/2023, 11:32:30 AM