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 明日もし晴れたら、海に行こうよ。
 病院のベッドから大雨の外を眺めながら、彼女はそんなことを言った。空より透き通った肌と、海より青白い顔と、砂浜よりざらついた声で、そんなことを。
「せっかくの夏なんだし。一度くらい見てみたいな」
「……そんなに良いものじゃないよ」
「そう? でも写真は綺麗だったよ?」
「あれはプロが撮ってるし、補正かけてるから。本物はもっと汚いし、うるさいし、熱いし、ベタつくし……」
「あは。それって見たことある人の感想だ」
 ──ぐ、と押し黙る。唇を噛んだ私になにを思ったか、彼女はへらへら笑って告げた。
「まあいいや。明日晴れるかもわかんないし、そもそも私が生きてる保証もないし。無駄な軽口だった」
「……」
「ねー、それよりアイス食べたい。パピコ独り占め」
「お腹壊すよ」
「いまさら胃を壊した程度じゃどうもならないよ」
「……そ。じゃあ持ってくるから」
 そうして私は、彼女の──人造人間《ホムンクルス》の部屋から抜ける。外にいた研究者の一人が「なにかあったか」と問いかけてきた。
「ううん。パピコが食べたいらしくて」
「そうか。その程度なら問題ない。記憶障害は出ていないな? 認知機能に問題は」
「いまのところ、見つからない」
「了解。まあお前に限って平気だとは思うが、アレに暗示を気づかれるなよ。あくまでアレは難病人で、俺達は医者で、ここは病院なんだから」
「わかってるよ」
 ──ばぁか。彼女はとっくに知ってるぞ。自分が被造物であることも。人間と思い込まされていたことも。長くないことも。──いずれ、私が彼女を殺すことも。

 彼女用の小さな冷凍庫からひと袋のパピコを取り出しながら、それでも彼女は、私とこれを分けてしまうのだろうな、と思った。

8/1/2023, 11:26:39 PM