沼崎落子

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 ヒトをずっと見ていた。愚かでみじめで自分の人生を縮めることばかりをして笑顔を浮かべているので見ていてとてもおもしろかった。その愛しい子どもが天国へとやってきた。嬉しかった。ずっと見ていたその子が今度は人生を縮めることなど気にせず「楽」を追い求められるのだから。
 しかし、光があり音があり食べ物もあり、緑もあり、水もあり、何もかもが人間たちにとっての快適を与えるこの場所で彼は泣いていた。
 兄がいないと泣いていた。あの世界で、兄はこの子どもを殴っていた。愛してはいたがそれは正しい愛し方ではなかった。だから兄は切り落とした。今では地獄で楽しくやっているはずなのだ。なのに、子どもは兄がいないと泣いている。
「愛しい子、泣かないで。ここなら君の願いは全て叶えられるよ」
「なら、兄さんのところに、連れて行って」
「君は兄によって人生を縮められていた。アルコールとドラッグまみれの人生にしたのは君の兄だ、君の兄は悪者だ」
「ちがう、そんなことない。兄さんは、優しかった」
「ああ愛しい子。馬鹿な子! 愚かな人間!! 君はここで過ごすことができる! でも君がここから行けるのは君の兄が絶対に行けない世界だけ! 君は救われるから! あいつは! 地獄へ!! 落ちる!!!! それが世界の真理!!!!!!!」
 子どもは泣いていた。わたしはどうしてこの子どもを愛しく思っていたのか忘れてしまった。わたしはまた下の世界をのぞき込むことにした。

6/3/2023, 10:46:09 AM