『七色』
最後に見た記憶。
手を伸ばした先にある、どこまでも続く青空。まばゆい青にどんどん引き寄せられ、私の体は浮上していった。
ああ、気が遠くなる。
気がつくと、周りは何もなかった。人もいなかった。天井も床も白色に統一され、例えるなら「無」に近い世界だった。
ここは天国か地獄か。
しかし、キラキラとした物が遠くにあるのが見え、私はすがる思いで走った。ふわふわした道を音もなく走った。
行き着いた先にあったのは、小さな池だった。茶色、黒色、灰色…。七色の、暗くて不気味な色を映し出していた。
これは、底なし沼に違いない。
私はゴロンと仰向けになり、真っ白な空をじっと睨んだ。
私は、現世で悪いことをしていたのだろうか。記憶が、最後に見た「青」以外何もないのだ。
そうだ、あの「青」を創ってみよう。七色を混ぜ合わせればできるかもしれない。
私は、沼に手を入れ、ぐるぐるとかき混ぜてみた。しかし、色の層は一瞬動くのだが、すぐに元通りになってしまう。何度もやってみたが無駄だった。青色にならない。
神は意地悪いことをする。
私はまた仰向けになった。頭上にある白色が、うらやましく見える。あの色があれば、きっと希望が見えてくるに違いないのに。
私はいったい、現世でどんな生き方をしてきたのだろうか。
頭がぼんやりとしてきた。
ああ、もう何も考えられなくなる。
白色をつかもうと、私は震える手を上へと伸ばした。
#ショートストーリー#1-2「記憶の中の青」
3/26/2025, 4:13:29 PM