どれだけつまらなくてありふれたストーリーでも、血生臭くて美しい描写さえあれば、俺は崇高だと思いこんでしまえるのだ、と思い知った。
それほどに、奴のパフォーマンスは恐ろしく魅力的だった。
口の中に感じる苦々しい悔しさを奥歯で噛み締めて、熱々のアスファルトの地面に唾を吐きかけた。
最悪だと思った。
今まで自分が素晴らしいと感じたもの、美しいと思い込んできたものが、本質的には、商業大衆用のプロールの餌と大して変わらなかったなんて。
最悪な気分だった。
俺は、打ちひしがれて、臭くて、薄っぺらくて、これまでひどく嫌悪していた感傷なんてものに浸っていた。
冷静に考えてみれば、俺は天才でもなんでもなく、ただの思い上がったバカだということは、どんなことばよりも明確に、俺の現実がありありと物語っていた。
好きなことで食っていく、と大見得を切って喧嘩し、飛び出した実家。
飯を食うために流行りを踏襲し、マーケティング戦略に沿って作られる作品を青臭くも嫌悪し、目を背け、現実逃避とばかりに、自己陶酔に浸っていた昨日までの日。
当然ながら、いつまで経っても認められない俺の作品。
ダラダラと夢だけを語りながら、テキトーに、バイトとバイトをこなす日々。
気がつくと俺の根は腐っていた。
現実から目を背けて、夢と理想と自分の世界に浸り、ただ自尊心をぶくぶくと太らせたばかりに、俺の現実の日々は、灰色に腐り切っていたのだった。
俺の、こんな生い立ちでさえ、ありふれたストーリーだ。
こんな人生を送っている人間は、この街だけでも100人はいるだろう。
夢が覚めた。
盲目で、ありふれていて、平凡で、つまらない男。
それが俺だ。
今の俺なのだ。
つまらない。
つまらない俺はヤケになっている。
つまらないついでに、今からの行動も、ありきたりのありふれたつまらないことをしようと思った。
傷心旅行だ。
後先考えない、ここ数ヶ月のバイト代を注ぎ込んだ旅行。
センチメンタル・ジャーニー。
俺の嫌いな、大衆に流行りまくったJpopのタイトルみたいなベタベタな旅行。
「センチメンタル・ジャーニー」
俺は小さく、調子はずれに口ずさむ。
気分は最悪だった。
あとからあとから込み上げる感傷が気持ち悪い。
俺は一歩を踏み出す。
クソみたいな自分に、舌打ちしながら。
クソみたいなベタを、口ずさみながら。
9/15/2025, 2:29:12 PM