いろ

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【天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、】

 桜の大樹の幹に背を預けて、スマホをいじる。天気アプリを起動すれば、明日の予報には太陽のマークがついていた。
「明日も晴れだって」
 満開に咲き誇った桜の枝に腰かけた君を見上げて声をかければ、くすりと楽しそうな笑い声が返ってきた。
「いつも天気の話だね。そんなに晴れが好きなの?」
「まあ、晴れと雨なら晴れのほうが好きだけど」
 少しだけぶっきらぼうな言い方になってしまったかもしれない。口にしてから不安になって君の様子を窺ったけれど、君はただにこにこと穏やかに微笑んでいるだけだった。
 ……本当は、天気の話なんてどうだって良いんだ。明日もまだ此処に君がいてくれるのか、尋ねたいことはそれだけで。だけどそれを直接問いかける度胸なんて僕にはないから、こうして遠回しに確認をする。
「晴れならまた、明日も来るよ」
「ふふっ、楽しみに待ってるね」
 花が散ってしまえば、桜の花の化身たる君も消えてしまう。どうか一日でも長く、君が咲いていられますよう。不意の雨に散ってしまうことがありませんよう。心の中で祈りながら、小さな約束を今日も交わした。

5/31/2023, 11:34:08 AM